#10:古代の神殿(二)

 バキバキ!
 半ば強引に茂みをかき分け、二人の前に現れたのは……実に個性的な格好をした女性だった。
 厚手の頑丈そうな生地で作られたツナギに身を包み、綺麗な緑の髪を無造作に結わいている。
 結構なサイズを誇るバストの胸元からのぞくカットソーは何故か虎柄。さらに、頭には丸眼鏡をずらし上げ、極めつけは背中のホルスターに収まるあり得ないほど巨大なブーメラン。
 そして、その巨大なブーメランに彫られているのは——|帝国騎士の紋章《トリオン》だった。

 突然の乱入者を呆気にとられたような表情で見ている二人に、その女性——帝国騎士クニスカは屈託の無い口調で言った。
「あれえ、アーク? こンなトコで、なにしとン?」
 見開いていてもなお糸のように細い目で、クニスカは呆気に取られた風のアークを見た。
 そのクニスカに、ちょっと渋い表情でアークは言う。
「それは、こっちが聞きたい」
 言ってから、クニスカが『破壊』した茂みを見ながらため息をついた。
「まず、ちゃんと道を通ることだ」
 とか、アークに言わたクニスカは照れ隠しのようにタハハと笑った。
「地図を見て来たンやけど、途中で方向だけしか分らなくなってナ」
 ぴらぴら、と。クニスカが掲げた地図に、ジンは見覚えがあった。
(——同じ地図だ)
 見覚えのあるペラ一枚。見覚えのある雑な線。
 素晴らしくアバウトかつジャンボリーな表記の地図を、クニスカは眺める。
「てか、コレ……細かいとこ、よぉわからンし」
 そんなことを言って、クニスカは苦笑した。
(だよね! やっぱ、わからないよね!?)
 同士を見つけた気持ちになって、ジンはぱあっと表情を輝かせた。
 その横で、少し憮然とした表情で
「……お前が用意して、俺に渡したのと同じ地図だろう?」
 と言うアークに、クニスカはわっはっはーと笑ってみせた。
「せやし……『面倒や、いけるトコまで行ったれー!』て!」
 笑いながら愉快げに茂みを指さすクニスカを困ったヤツだとばかりに見ながら、アークはため息混じりにクニスカに言った。
「面倒くさがるな、そんなこと」
 もっともな意見だった。
「こんにちは、クニスカ」
 ひょっこりと現れて挨拶をしたジンに、クニスカは細い目をより細めて笑顔を見せた。
「ああ、アークのお弟子さんやね。ごぶさた。強くなった?」
「まだまだだな」
 答えを横取りするアーク。それを聞いてジンはむーっと不服げな表情を浮かべる。
 アンタ基準で考えたらアカンて、とフォローするクニスカにアークは向き直った。
「それで、ここで何をしているんだ?」 
「アンタと一緒や」
 屈託のない表情で、クニスカは神殿を眺める。
「ミュートスゆかりの神殿やろ、ここ」
 鏡のように磨かれた外壁に手を当てていたクニスカは、そのまま拭き掃除をするように手のひらで壁を撫でてみる。
「ウチは帝国史の研究の絡みで、過去のミュートスの歴史も同時に調べてるからナ。謎の神殿ちう話やけど、ミュートスの手によるものということはハッキリしてるし」
 すとん、と。クニスカは額の上にずりあげてあった眼鏡をかけて神殿を眺めた。
「まァ……とりあえず、見てみよかって感じや」
 言いながらクニスカ。正面に回り込み、閉ざされた扉に手を当てた。巨大な一枚岩で作られた扉と扉のチリが完璧にあっているのがわかり(こんなにピッタリしてたら、指もかけられヘンなあ……)と、心中で舌を巻く。
「しかし、綺麗な建物やなあ。中に何が入ってるンやろ?」
「さっきアークが『災厄が詰まってるのが良くある話』って言ってた」
 お気楽に笑いながらジンが言うのを聞いて、芝居がかった所作で肩をすくめたクニスカ。
「夢がないなあ。金銀財宝がざっくざくとか。綺麗なお姫様が眠ってて、ジンのキスで起こされるのを待ってはる言うのも『良くある話』やで」
 目を丸くするジンに向かって、んー、とクニスカは唇を突き出す。目をつむっているところを見ると『起こせ』と言うことだろうか。
「そう、だねぇ……」
 ハハハと、苦笑いでごまかすジン。目を閉じたまま、タコのように唇を突き出しているクニスカ。ふうっと、疲れたようなため息をつくアーク。
 平和な光景であった。

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