#101:スパシアーの研究室(三)

 やっぱり、親子ですねーと面白そうに笑うスパシアーの顔を見て
「すると、父が……」
 と、頭の中で計算している風のアークにスパシアーは答えた。
「初めて会ったのが、レグルスさんが二十二……かな?」
 興味津々で聞いているアークに、スパシアーは補足した。
「わたしが十七歳のときですね」
 スパシアーの年齢から逆算すると、およそ二十六年前の話である。
 そんなに前かと瞠目するアークの顔を、スパシアーは面白そうに見た。
「……レグルスさん、そういえば言ってました」
 そんな『昔』と言っていい頃のことを思い出そうとして、スパシアーは少し遠い目になる。
「『息子が欲しい』って」
 結婚する前ですけどね、と付け加えながらスパシアーは黙って自分の言葉を待っているアークにこう言った。

「『いつか大会で、自分の息子と戦うのが夢だ』って」

 どくん。
 その言葉を聞いて、アークは鼓動の高まりを感じた。
「そうですか……」
 と。感慨深く、静かにつぶやいた。
「父が、そんなことを言ってましたか……」
 ぎゅっと。グローブをはめた拳を強く握る。
 そんなアークを見て、スパシアーは柔らかく微笑んだ。
「はい、言ってました」
 そういってから、スパシアーはちょっと苦笑する。
「そのときは『かわったことをいうなあ』って思ってたんですけど」
 うん、と。得心げに頷いてアークの顔をのぞき込む。
「今日、なんとなくレグルスさんの気持ちがわかった気がします」
 そう言ってなんだかうれしそうに目を細める。
「今のアークトゥルスさんを見たら、きっと喜びますよね」
 その言葉にアークは、思わず苦笑して答えた。
「がっかりしなければいいのですが」
 それを聞いて、スパシアーは首を数回横に振った後でにっこりと笑った。
「しませんよ、絶対」
 それは、うららかな春の日差しを連想させるような。
 明るくあたたかい笑顔だった。
 それを見たアークもつられて笑みを見せ、そしてカップを置いて立ち上がる。
「すみません、すっかり長居してしまいました」
 ちょっと思案げにうつむいた後で、アークはスパシアーの目をまっすぐ見た。
「父の話が聞けて、嬉しかったです」
 その言葉を聞いてスパシアーはうんうんと頷いた。
「わたしこそ、いきなり呼び止めてしまってスミマセン」
 ぺこり、と頭を下げてスパシアーは柔らかく微笑んだ。
「また、コーヒーを飲みましょう」
 アークも彼には珍しい種類の笑顔を見せて答えた。
「はい。とても美味しかった。ごちそうさまでした」
 そして席を立ち一礼し、アークは研究室を後にした。

 スパシアーは、アークを見送りドアを閉めて、ふうっと息をついた後でゆっくりとグラーディアスの方を振り向いた。
「良い若者ですね、グラーディアス?」
 朗らかな笑みを浮かべて、スパシアーは上機嫌に尋ねた。
 グラーディアスは答えず。ただ、部屋の片隅で静かに佇むだけだった。

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