#105:ガレノス執務室(三)

 簡単に解説をさせていただくと……
 言魂には、主だったところで二種類ある。
 
 一つは、ミュートス。
 いにしえの言魂で、口にしたことが現実になる力。
 使えるのは、生まれついての素質を持ったごく一部の人間のみ。
 きわめて原始的だが、それ故に『神なる声』と呼ばれるほどの強い力を秘めている。
 
 もう一つは、ロゴス。
 ミュートスを研究して発声の韻・速さ・抑揚のみならず発声時の姿勢や呼吸方法などを追求。
 生まれついての素質がなければ使えない『神秘の力』であるミュートスに対して、体系的な基礎理論を確立。
 戦闘に関する言魂に限られるが、修行すれば誰でも使えるようになるのがロゴスである。
 
 だが。
 そのロゴスも満足に使えないほどに言魂使いの素養がない者。
 また、ロゴスの修行を積む機会に恵まれなかった者。
 そうしたものが、言魂使いのように言魂を行使するための力。

 ——それが、プロトコルである。 

 プロトコルは先の二種類とは異なり、グラーディアスやエニアックのような人形を動かし、その人形を介して言魂の力を発揮する仕組みである。
 人形は、原則起動した人間にしか扱うことができず。
 闘いだけではなく、様々な用事を申しつけることもできる。
 言魂と言う力を使い、人間の生活をサポートする力。
 ロゴスをさらに論理的に追求して作られた言魂体系。
 プロトコルは、一番洗練された言魂のかたちなのだ。

「ところで、な」
 紅茶を飲みながら、ガレノスは話を切り出した
「陛下のご病状が、いよいよ思わしくなくなってきた」
 いきなりの話に、スパシアーは目を丸くする。
 ガレノスは彼女のそんな様子には特に頓着することもなく続けて話し続ける。
「医師から報告があってな。もう床上げは出来ぬだろうと」
 その話を聞いて、スパシアーは表情を曇らせる。
「そんなに悪いんですか?」
「残念ながら、な」
 さして残念そうでもない口調で、ガレノスは言った。
 そして、なおも表情が暗いスパシアーに向き直る。
「だからこそ、もうひと踏ん張りせねばならん。忙しくなるぞ」
 スパシアーは帝国技術研究所の一技術者だった頃からガレノスを知っている。
 だが、今のガレノスは『帝国宰相代理』だったのだと。
 皇帝陛下が倒れたら、すべての公務は彼が代任するのだと。
 そういうことに思い至り、スパシアーは表情を引き締めた。
「紅茶、ごちそうさまでした」
 と、紅茶を飲み終わり立ち上がるスパシアーにガレノスは頷いてみせた。
「またデータの収集をたのむかもしれん」
「はい、いつでも言ってください」
 ガレノスと違い、正真正銘『一技術者』であるスパシアーに、政治でできることなどない。
 せめて、学術方面だけでも帝国の力になれればと快諾し、一礼した。

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