#106:ガレノス執務室(四)

「では、私はこれで」
「ああ、ご苦労さん」
 ガレノスは笑顔で礼を言うと、書架の方に声をかける。
「エニアック! お見送りをしてくれ」
「はい、お父さん!」
 とてててて。
 長い裾を引きずるように、エニアックが小走りしてやってくる。
 そして、スパシアーと共に階下へと歩いて行った。

 そして、玄関口で、エニアックは古びた重い頑丈な扉を軽々と開けた。
「ありがとう」
 礼を言ってから、スパシアーはくすっと笑いつつ、腰を折りエニアックの顔をのぞき込むと
「じゃあね、エニアック」
 ぷにっと。エニアックの柔らかい頬を人差し指でつついた。
「はい、スパシアーさん!」
 くすぐったそうに笑いながら挨拶するエニアックに手を振って、スパシアーはガレノス邸を後にした。
 おげんきでーと、ぶんぶん手を振るエニアックに見送られながら。

 そして、衛兵詰め所に顔を出して、エニアックはガレノスの部屋に戻った。
「おう、ご苦労さん」
 と、微笑んで迎えるガレノスの前に歩み寄り、エニアックは白いレースのエプロンの下から書類と手紙の束をごそっと取り出した。
「お父さん、お手紙が届いてます」
 彼女の身体では抱えるような量になる書類の束を、ガレノスは苦笑しながら受け取る。
「全部読んでいたら寿命が尽きるな……」
 と、ぼそっと呟きながら宛名と頭紙だけさらっとチェックする。
 その中の一枚。宛名も差出人も書いていない封筒に目をとめ、ペーパーナイフを手に取り、中を開け文面に目を通した。
「……ふむう」
 難しい顔になるガレノスだったが、読み進むに従って眼が輝いてくる。
「これは……忙しくなりそうだぞ、エニアック」
「はい、お父さん」
 ティーセットを片付けながら、にこやかに返事するエニアックを眺めて、ガレノスは、他の書類を急ピッチで片付け始めたのだった。

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