#11:古代の神殿(三)

「で、アークの方はどうなんや?」
 王子様のキスが無かったことにちょっと不満げな表情を浮かべ、ジンのほっぺを肘でつんつんとつつきつつクニスカはアークに尋ねた。
 なにがだ、というアークに眼鏡を再び額の上にずりあげた手で、背負った自分の巨大なブーメランをコンコンとノックしてみせるクニスカ。
「ミュートス狩り。勅命やンか」
 言われたアーク、表情に陰を作ってクニスカを見る。
「気が乗らなくてな。修行にかまけて、なにもしていないのが実情だ」
 そんな自慢にならないようなことを堂々と言いながら、腰に手を当てるアーク。このところ、料理にしか使っていない短剣の柄が木漏れ日を受けてキラっと輝く。
「よかったー。ウチもや」
 サボリの同士を見つけたことによる安堵の表情を見せてから、クニスカは思いだしたようにため息をついた。
「……おかげで帝都にも戻りづらいワ」
 つられて、アークもふうっとため息をつく。軽く首を振りながら、神殿の上空あたりの空をなんとなしに眺めて目を細めた。
「ゴート卿はそれほど気にする様子でもないが、それでもな」
 それを聞いたクニスカ、思わずといった風に苦笑した。
「あのひとも出世とか関係ないし、マイペースやからなあ」
 と、まるで人ごとのように言ってみる。
 そして、そのゴート卿の出世とやらに、明らかにマイナスプロモーションな二人。その事実を棚上げしつつ、帝国の現在について語り始めたのだった。
 その横に立っているジンは黙って脇で話を聞いていたが、まったくもって理解できない話になってきた上に、なにやら込み入った内輪の話になってきたのを察し
(いない方が、いいかな?)
 と、神殿の裏手に向かって歩き出した。
 そして、ジンのことを見ていない風だったアーク、歩き出したジンに向かって言う。
「ミュートスに襲われるかもしれない。あまり遠くへいくんじゃないぞ」
 だいじょうぶー、とジンは手を上げて歩き出した。そのまま神殿の周りをぐるっと回ってみようかと下生えを踏みしだきながら森の中に入る。
 ここに来る道中は実に険しい道が続いたが、この神殿自体は比較的平らなところに建てられたらしく、周囲の森は平坦で歩きやすかった。
(なんだろう……)
 歩きながら、ジンは森の木々を見上げ、周りを見渡しつつ首をかしげる。一面を緑に囲まれた小道のなか、何の抵抗もなくすたすたと歩き続ける。
(なんだか、見覚えがあるような気がする)
 無論、今までこんなところに来た覚えはなく。ジンはいわゆるデジャヴュの気味悪さを覚えつつ、確かな足取りで森の中を歩いた。
 木漏れ日が柔らかく歩くジンを照らし、さわやかな空気が何とも言えず心地よい。
 そして、ふと。ジンは立ち止まり、何かに気がついたような表情になる。
「——ここ、どこ?」
 思いっきり、迷った。
 ぼーっと歩いた結果として、現在位置をロストしてしまったようである。ジンは今までとはうってかわって頼りない足取りで、逆戻りするように森を往く。
(まずい、アークに怒られるよ!)
 大声を出せばアークが助けに来てくれるんじゃ、と言う考えは無く、何とか自力で帰り着こうと、ジンは周りをきょろきょろと見渡しながら手がかりを探した。
 そして、ふと息を吸い込んだとき……かすかに水の匂いを感じるジン。来るときもこんな感じだったと、やっとゲットした手がかりに内心でガッツポーズを取る。
「こっちかな?」
 ひとりごちながら、淡水独特の匂いが強くなる方向めがけて歩を進める。そして、幹と幹の間から泉が見えたとき、ジンは思わずにっこりと微笑んだ。
「よかったよかった」
 下生えを踏みならし、ゆっくりと泉のほとりに向かって歩いていったのだった。

公開 : (1520文字)

ページトップ