#114:ゴート卿執務室(四)

 アリゼがあてがわれた部屋で悦に入っている頃。
 ゴートの部屋をクニスカが訪れていた。
「あれだけ貴重な資料をみさせてもろて、収穫大ありですワ」
 とかいいながら。
 五百ページはあろうかと言うボリュームの書類の束を上機嫌でゴートに手渡したクニスカだった。
 手渡す際に『とりあえず、時系列に沿って主だったところだけ抜粋してまとめました』とか言っていた気がするが
(抜粋して、これか……)
 と、彼の膂力でもずしりと重みを感じるファイル形式の書類を苦笑しながら受け取り、ゴートはクニスカの労をねぎらうように頷いてみせた。
「では、がんばって読破しておこう」
いいながらファイルを机に置いて、ゴートは腰をかけ直しクニスカに向き直る。
「で、何かわかったか?」
 ハイ、と頷くと、クニスカは順序立てて話し始めた。
「帝国の歴史的背景、今までのモンスター発生のデータ。ミュートスの変遷……色々見させてもろて、その上で現状を慮るに」
 少し間をおいて、すうっと息を吸い込み核心を述べた。
「ミュートス狩り、モンスターの発生増——これらは無関係ではない、と思います」
 いきなり自分がおぼろげに感じていた、不安にも似た何かにズバっと斬り込まれたような感覚にゴートは瞠目して動きを止める。
 そして、話の核心を言ってから、クニスカは難しい顔でわしわしと頭をかいた。
「いや、細かい理屈はまだよぉ分かってないンですけど……そんなして考えたら『説明がつく』事が、多いンですワ」
 『不可能な事を除外していくと、後に残ったものがたとえいかに不合理だったとしても、それこそが真実である』と言ったのは誰であったか?
 帝国が秘匿していた過去に起きた数多の事柄から現状を見ると、そういう結論になったのだろうか。クニスカは、そこまで言うとゴートの顔を力をこめて見た。
「実地で確かめたいトコがありますンで……探索に行く許可をもらえませんでしょうか?」
 その言葉に、ゴートは深く頷くと
「助かる。是非、お願いしたい」
 と、二つ返事で了承した。
 そして、ほっとした表情になるクニスカを、少し難しい顔で見る。
「実は、な。俺からも頼みたい事があるんだが」
「……承ります」
 なんとなく、嫌な予感を感じながら、警戒して身を固くしたクニスカにゴートはどこから話そうか考えるそぶりを見せてからゆっくりと話し始めた。
「ガレノス殿が、ミュートス狩りの部隊を大幅に強化しているらしい。アークトゥルス卿の報告にあったが、ミュートスの里を皆殺しにする勢いで焼き討ちしている輩までいると言う」
 ふう、と。重いため息をついて、ゴートは首を横に振る。
「本来は捕縛が原則のはずだが……ずいぶんと荒っぽいことだ」
 その後、ゴートはアリゼから聞いたばかりの情報をクニスカに語った。
「……人間の意識が残ってるのに、モンスターになってる言うことですか?」
 そんな、残酷な……と、クニスカは実に痛ましい表情になる。
 確かにそこまでの異形になりながら人としての意識を保っているのは、当人にとって途轍もない苦行であるだろう。
 ゴートも同じ考えなのか、深く頷いてクニスカに言う。
「人間がモンスターになること自体、聞いたことがないからな。区別をつける意味でも、そのモンスターを『キマイラ』と呼ぶことにしよう」
(キマイラ——天馬に乗って倒すンやったかいな?)
 子供のころに読んだきりのおとぎ話を思い出そうとするクニスカだったが、ややあって少々げんなりした表情になり
(わざわざ名前つける言うことは——『なんとかせぇ』いうことやンな)

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