#115:ゴート卿執務室(五)

 はあっと、聞こえるか聞こえないかの小さいため息をついた。
「……まあ、獅子の頭で腕に人間がついてるよりはエェかと思うことにしましょ」
「単純に獣の方が与しやすいかもしれんぞ。人の知恵は侮りがたいものだ」
 苦笑しながら言うゴートに、クニスカはなおもげんなりした表情のままで答えた。
「単純馬鹿なことを祈りますワ」
 そうだな、と。シニカルに笑ったゴートだったが、ふと何かを思いついた表情になる。
「知恵を持つモンスター、か——ガレノス殿なぞ、興味津々だろうな」
 そう言い置いて。ふん、とゴートは鼻を鳴らした。
 クニスカはそれを受けて首をかしげる。
「ガレノス殿は知ってはるんでしょうか?」
「当然、何らかの噂を聞いていると見て良いだろう」
 面白くなさそうに答えたゴートだったが、ややあってクニスカを真顔で見た。
「そこでだ、クニスカ卿」
 警戒するクニスカを余所に、ゴートはさらっとクニスカに言った。
「件の探索に出るついでに——キマイラの探索もお願いしたい」
(来た、やっぱ来たデ……!)
 そして、ゴートは半ばのあきらめとさらなる警戒の気持ちを表情に浮かべたクニスカに
「可能ならば、捕獲できれば最高だ」
 とか、こともなげに言い放つ。
(最高やあれへンがな!! 天馬でも貸してくれるンかい!?)
 すかさず胸中でツッコミを入れつつ、クニスカは言う。
「いや……まあ、トライはしてみますけど……あんまり、期待せんといてくださいね」
「無理はするな」
 しれっと真顔でそんなことを言うゴートを、クニスカは若干のジト目で見た。
 そんな視線はまるで気にしないゴートだったが、ちょっと眉根に皺を寄せる。
「ただ、ガレノス殿に渡したくないと言うのもある」
 深い思惑があるのか、それとも単なる対抗心からなのか。
 計りかねながらも、クニスカは頷いてみせる。
 そして、ゴートは寸暇の思案の後で、クニスカに向き直る。
「あと、モンスターの増加の原因——それも人間をもモンスター化するほどの原因」
 アークからアリゼから聞かされた常識の外にあるような事態。
 こんなことがいきなり立て続けに起きるということは、きっと原因があるはずだと。
 ゴートは確信した目で、クニスカに言った。
「必ずあるはずだ。探ってくれ」
 そういったゴートのものすごい目力を、きわめて細い目で受け止めて
「了解ですワ」
 と、クニスカは二つ返事で了解した。
「そこはウチも気になってましたし、キッチリ調べてきます」
「頼むぞ」
 しっかり頷くゴートに向かって、クニスカは姿勢を正してハイと頷いた。
「では、失礼します」
「おう、気をつけて行ってくれ」
 目を細めて見送るゴートに頭を下げて。
 クニスカは執務室を後にしたのだった。

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