#119:カリテア近郊、山中(一)

 それから十五分後。
 若干手荒く詰め所に連行された男を、部隊の隊長とおぼしき兵隊はホクホク顔で見た。
 自分たちは詰め所に詰めているだけで——正確には情報を集めてくるだけで——どんどんミュートスを生け捕りにしてくる女ハンターが配下にいる。
 オデットがミュートスを狩ってくればくるほど、自分の手柄になるのだからたまらない。
 部下の損失もゼロ、それでいて成績だけはぐんぐん伸びる寸法だからだ。
「賞金ははずんでおくれ。どうせ、捕まえてるのはアタシだけなんだろ?」
 それを知っているオデットは、その隊長に向かって横柄な物言いで軽口をたたく。
 賞金稼ぎの風来坊がスポンサーである帝国兵に向かって取る態度ではないと思うのだが
「おう。アンタがいるお陰で俺の隊はずいぶんと格好が付いているからな。女と子供分くらいは乗せておくよ」
 と、言われた隊長もへらへら笑って応じている始末。
 まあ、相身互いでギブアンドテイクといったところなのだろう。

「何故、こんな目に遭わなければいけないんだ!?」

 突然——
 捕らえられたミュートスの男が目を覚ましたのか、オデットに向かって怒りの表情で叫んだ。
 ギョッとする隊長。慌てて男を押さえつける兵隊……男は、頭を押さえられてなお大音声でオデットに言う。
「私たちは……何も悪いことなどしていない!!」
 その憎しみと理不尽な想いとが混ざった血を吐くような訴えを、ただひとりオデットだけが涼しい顔をして受け止めた。
「自分は何も悪くないのに、良くないことになるのは珍しくないのさ」
 ぽん、と。
 オデットは左腰のホルスターに収まった鞭を軽くたたいた。
「嘆く前に強くなるんだね——そうすれば、理不尽にだって言うことを聞かせられるさ」
 グッと、下唇をかみしめたまま。
 男は建物の奥へと連行されていった。
 オデットは、それを見送ってから。面倒くさそうにペンを走らせて書類を書いている隊長に言う。
「大物はいないのかい? 小物相手も楽でいいっていえばいいんだけど、仕事が細かくてちょいと面倒だよ」
 洋服の販売でも、一万円のセーターを売るのと三千円のセーターを売るのとでは接客にかける時間や頭と気をつかって接客する苦労はそんなに変わらないことが多い。
 無論三千円の方が楽に決まるパターンが多いが、接客が終わった後の疲労度と売り上げを考えて『どうせなら単価が高い商品を!』と思うことがままある。
 オデットが言っているのも、恐らくは同じような話なのだろう。
 そして、言われた隊長は待ってましたとばかりにニヤリと笑って話し始める。
「例のミュートスのお姫様の話だけどよ」
「あぁ……ガレノスの旦那が、わざわざ早馬飛ばしてきたアレかい?」
「そうそう。その居場所が分かったよ」
 へぇ、と。興味深そうに自分を見るオデットに、隊長は地図を広げて見せた。
「この間、情報屋から買った情報でよ……このあたりだ」
 地図を覗き込むオデットを、隊長は鼻の下を伸ばして見た。
 マントの下の豊満な胸の谷間が、地図を見るためにかがんだおかげで見えたからだろう。
 思わぬ余禄に、至って上機嫌な感じで隊長は補足を入れる。
「子供だけで旅をしてるって話だ。護衛の騎士とかはいないらしいぜ」
 それじゃハンターの襲撃どころか、普通に旅するのも危ないんじゃないかとオデットは目を丸くする。
 隊長、その様子をみてニヒヒと品無く笑いを漏らした。
「ミュートスの姫様のお付きだから、周りの子供もミュートスなんじゃねぇか? 全員生け捕りだと、賞金は大きいぜ」
 我が意を得たりとばかりに、オデットもニヤリと笑みを見せる。
 そして地図の上の『ミュートスの姫様』がいるとされる地点をとんとん、と指で軽く叩いた。
「捕まえたら、アンタに引き渡すよ」
 宰相代理が直々に指示した目標である。その報奨は如何ばかりかと想像して、隊長の顔に自然と笑みがこぼれる。


「頼んだぜ!」
 そして、今回の男を捕まえた件での賞金を受け取り
「じゃあ、行ってくるさね」
 と、ひらひらと手を振って詰め所を後にした。
(大物か……こういう仕事がなきゃ、つまらないよねェ)
 心中独りごち。
 オデットは、街道を進むのだった。

公開 : (1720文字)

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