#120:カリテア近郊、山中(二)

 それから数日後。
 付近の街や集落で聞き込みをしながら旅をしたオデットであったが。
 子供ばかりで旅をすると言う、それなりに目立つ一行は記憶に残りやすいものか、比較的スムーズに足取りを追うことができた。
 少し大きな村から山中に分け入って半日弱。木こりや猟師が使う山小屋に泊まっていると言う情報を頼りに、オデットは獣道を歩いていた。
 マントに灌木やとげのある草が引っかかり、歩きにくいこと甚だしい。
(近くに町があるのに、こんな山の中にわざわざ泊まってるってのは怪しいねぇ)
 道の悪さに辟易しながら——しかし、情報は確かそうだと歩いているオデットの前の道が急に開けた。
(どうやら、当たりみたいだね)
 木々の向こうに古びた小屋が見え、オデットは太い幹の陰に身を隠した。
 そして、思い出したかのように地図を取り出し、周囲を見回す。
(街道にでるにはこの小道を行くしかない、ね)
 小屋に行くまでは細い獣道が一本だけ。枝道はない。
(あとは森の中だけど、結構険しいから逃げるにも限界があるね)
 獣道を歩くだけでも難儀させられた灌木は木々の間にも生えており、山中を木々を縫って逃走というのはなかなかやりづらい地形であることが分かった。
(よし……じゃあ、行こうか)
 軽く深呼吸一回。オデットは小屋に向かって歩き出した。
 小屋の前ではメイミィとテルプシコルが洗濯物を干し終わり、二人でのんびりと談笑しているところだった。
「くつろいでいるところ、すまないね」
 逃走路である獣道の、街道側への出口を塞ぐように位置取りながら、オデットは二人に声をかける。
 見たことのない女性に、メイミィは首をかしげて尋ねる。
「……誰?」
 そのあまりに危機感のないメイミィの声にちょっと拍子抜けしつつ、オデットは尋ねた。
「お嬢ちゃんが、ミュートスのお姫様かい?」
「何!?」
 答えたのはメイミィではなく、目を丸くして立つメイミィの横で意気をあげて一挙動で立ち上がったテルプシコルだった。
 そのテルプシコルの出で立ちと態度の硬化っぷりをみて、少し嬉しそうにオデットは微笑む。
「……そっちだね、ムーサイの巫女さまは」
「誰だ!? 名乗れ!」
 明らかに自分をピンポイントで狙ってきている。
 そのことが分かってテルプシコルは警戒の態度をあらわにする。そして、ようやく事態がすこーし飲み込めてきたのか、表情を引き締めて脇にたたずむメイミィを見ながら
「アタシはオデット。ミュートス狩り専門の賞金稼ぎさ」
 オデットは、笑みを浮かべたまま名乗った。

 そうだろう、とは予測していた。
 が、覚悟が足りなかった。
 『ミュートス狩り』という言葉の衝撃に——自分が『獲物』になった事実に目を見開いて言葉を失い、テルプシコルとメイミィはただ立ち尽くしていた。

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