#121:カリテア近郊、山中(三)

(……これは、楽勝だね)
 余裕の笑みを浮かべ、一歩前に出るオデットにいきなり声がかかった。

「おいおい、ちょっと待ってくれ姐さん」
「な!?」

 小屋の後ろからぬうっと出てきた大男——マックだった。
 マックの後ろにはグローブをはめ、オーラをまとったジンもいる。
 オデットは、ジンをちろっと見た後でじいっとマックを見た。
 身長百九十一センチ。体重一〇五キロ。
 そんな筋肉の壁を見て、オデットは帝国兵隊長の言葉を思い出した。

 ——子供だけで旅をしてるって話だ。護衛の騎士とかはいないらしいぜ。

(こんなデカイ子供はいないよ!)
 あの隊長、情報屋にぼったくられたね、と。
 思いのほか楽ではなさそうな仕事に軽く溜息をつく。
 その隙に、マックはメイミィとテルプシコルの前に出て二人をかばうように立ちはだかる。
「まあ、アンタも賞金稼がにゃあならんのはわかるんだけどよ」
 ぐいっと、マックは親指で背後を示して苦笑いする。
「言魂使い四人だぞ。ミュートスとロゴスが二人づつ。さすがに、姐さん一人じゃ難儀だろう」
 一拍の間を置いて、なおも苦笑しながらマックはオデットに提案した。
「どうだい、ここはひとつ退いてくれねェかい?」
「確かに四人は面倒だけどね」
 ふっと、鼻で笑いながらオデットはマックに向き直った。
 マックの巨躯の背後にちらりと見えた、厳しく引き締まっているテルプシコルの顔を見る。
「今回の賞金は大きいんだ。そのくらいは働かないとね」
 その表情が余裕というか——ストレートに言うと小馬鹿にしているように見えたりもして。
 頭上でカチン!と音を響かせたテルプシコルは、目の前で壁みたいに突っ立ってるマックを両手で押しのけようとしながら、オデットを睨み付けた。
「もう良い、どけ! この分からず屋を力尽くで追い返してやる!」
「かー、テル吉は俺よりも短気ときてらァ!」
 腰のあたりをぐいぐいと押されながら詠嘆するマックに、オデットはなおも不適に笑いかける。
「力尽くで、かい? いいねぇ」
 と言い置いて、オデットはマントを跳ね上げた。
「な……!?」
 次の瞬間——あらわになる、猛烈に露出度の高い装束。
 なかなかお目にかかれないほどの豊満なバストが申し訳程度に隠してあるといった具合のデザインの装束に、マックとジンの眼は丸くなったまま釘付けになった。
「……なんか、すごいね」
 メイミィは苦笑しながら、これまたやはりオデットの胸のあたりに視線を固定する。
「…………」
 何か言いたげに。
 テルプシコルはジトーっとした目線をオデットの胸とか腰のあたりにくれる。
(わたしが十九のからだならば……いや、そういうことを言っている場合ではないが)
 ふと、気になって、テルプシコルは斜め後方から我が男性陣の顔を覗き込んでみた。
 二人とも言葉を失い鼻の下をのばしつつ、大赤面大会である。
(——もげ落ちてしまえ、馬鹿者)
 テルプシコル、眉根に皺を寄せて心中で呟く。
 ……いや、リボンをはずして、口に出していたらエラいことになるところだったわけだが。
「シャキッとせんか、シャキッと!!」
 と、テルプシコルは渾身の力で二人の背中を叩いた。
 パ、パァン!といい音が連発で響き、馬鹿二人が驚いた表情とともに我に返る中。 
 当のオデットは涼しい顔をして、一同に相対していた。
「じゃあ、仕事しようかね」
 余裕の表情でマスクを引き上げ、拳に息を吐きかけるようにオデットはオーラをまとった。

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