#124:カリテア近郊、山中(六)

「傷を癒すから、近くに来て!」
「こちらへ来い、ジン!」
 後方から援護しようと思うが、いかんせん遠間合いで攻撃が届かない。
 テルプシコルもメイミィも、やきもきしながらジンに声を飛ばす。
「聞こえぬのか、ジン!?」
「ジン、いったん下がって!」
 そんな、二人の心配げな声を背中に聞きながら。
 正面のオデットを——とうていかなわぬ敵を睨み付けながら。
 ボロボロになりながら、ジンは言う。

「下がったら……守れない!」

 それは正面の敵に傷一つつけられない自分に言い聞かせるような、気合いのこもった言葉だった。
 その後ろで、女子二名を守るように立っていたマックだったが
(結構きかん気強ェじゃねぇか、ジン)
 と、目を丸くする。
 一対一の戦いに、割ってはいる野暮はしない。
 そんな風情で腕を組み見守っていたものの、普段の弱気なジンからはその戦いぶりとその言葉は想像がつかないものだったのだろう。
 そして。
 当のオデットも驚いたような表情を見せた後、何となく嬉しげに笑った。
「いいねぇ……そういう子、アタシは好きだよ」
 すうっ。
 息を深く吸い込み、オデットの身体全体がオーラの輝きに包まれた。
「あまり苦しめちゃ、可哀想だね」
 独白のように言った後、ジンを見る目が獲物を狙うそれになる。
 その視線に一瞬ひるんだ表情を見せたジンだったが、激しく首を数回振って何かを打ち消そうとしながらオーラで光り輝く拳を振りかぶり、間合いを一気に詰めるべくオデット目がけて走り出した。
(絶対に……なんとかする!)
 オデット、悲壮感すら漂う必死の表情で突っ込んでくるジンを見ると右腕を大きく振りかぶり、空中で幾重にも弧を描く鞭にオーラを乗せると、裂帛の言魂を紡ぎ上げた。
「『ローズタトゥー!』」
 オーラで輝く鞭が一直線にジンに向かって伸びてきた。
 ジンは咄嗟に避けられないと悟り、眼前に両腕を上げてガードをする。
 だが。
 ジンの腕に阻まれるはずの鞭は、あろうことか直前でジンの身体を迂回した。後頭部の方から、まるで生き物であるかのようにジンの首に幾重にも巻き付く。
「え……!?」
 オデットの手首の一捻りで 頚動脈洞に一瞬で強い圧力をかけられたジンは次の瞬間、意識を失ってその場に崩れ落ちた。
 倒れる際に頭を強く打ちそうになったのを、オデットは鞭を引っ張って支えた。
 そして仰向けに、まるで眠っているかのように気を失って倒れているジンに優しく微笑んだ。
「よく頑張ったよ、坊や」
 体中に無数の傷を負い、胸元には最後の攻撃で付いたとおぼしき薔薇の形の痣。
 そんなジンに対して、オデットは全く無傷のまま余裕の表情でたたずんでいた。

 そして。
 マックは黙って気絶したジンに歩み寄り、彼の性格からすると意外なほど丁寧にジンの身体を脇の草むらに横たえると
「さて……ジンが根性見せたからな」
 スパン! といい音をさせてグローブを鳴らし、オデットに向き直る。
「俺も見せなきゃならねェやな」

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