#125:カリテア近郊、山中(七)

 おもむろに拳に息を吐きかけて、マックはオーラをまとう。
 拳から全身へと広がるオーラの輝きを、オデットは厳しい表情で見た。
(……ただ者じゃァないねェ)
 所詮、子供に雇われる程度の用心棒だろう、と。
 その認識が甘かったことを自覚して、オデットはマスクの下で唇を噛む。
 ——それは、今まで経験したことが無い程の強大なオーラだったからである。
「……たァいっても、な」
 またも困ったような表情で、マックはオデットの顔を見た。
「どうにもこうにも、女を殴ンのは抵抗があらァな」
 繰り返される『この期に及んで』な発言に、オデットは目を見開く。
 そんな彼女を余所に、マックは背後を振り返り
「テル吉とメイミィが後ろから技かけてやっつけてくれ」
 と、言い放つ。そして、正面を向き直ったマックは拳をグッと握りしめ
「ゆっくりオーラを溜めてていいぞ。コイツの攻撃は、俺が全部防いでみせるからよ」
 と不敵な表情でニヤリと笑って見せた。
「……舐められたもんだね」
 マックのセリフを侮辱と取ったのか、オデットの瞳が怒りで鋭くなった。
 ぽおっと、身体と鞭がオーラの光をまとう。
「じゃあ、お望み通り……アンタにだけ攻撃をしてあげるよ!」
 タッと音を立てて勢いよく飛び退き、遠い間合いから手首のスナップで鞭を踊らせた。
「『ラピットウィップ!』」
 スパーン!
 ものすごい音が響き、後方のメイミィとテルプシコルが青ざめる中で
「……ふむ」
 と、何事もなかったかのようにマックは鞭で打たれた右腕を見る。
「こんなもんか?」
「舐めるんじゃないよっ!」
 なおも余裕の笑みを浮かべるマックに、オデットは怒りの鞭を振るう。
 一発、二発……無数の攻撃を浴びたマックは、ガードを固めて平然と立っていた。
 立っているどころか、オデットの方に一歩、また一歩と近づいてさえいる。
 信じられないものを見るような目で見るオデットに、マックは傷だらけの顔でニヤリと笑う。
「どうした姐さん? はやくしねェと……後ろがオーラを溜めきるぜ」
 ギリ……と。マスク越しに見ても、オデットが歯を食いしばったことが分かる。
 そんな怒りと苛立ちをあらわにして、オデットは猛然と鞭を振るった。
(マック……! もう少し、もう少し待ってて!)
 攻撃を避けているわけではなく、ガードをしているだけだった。
 ガードと言っても、遮蔽物や盾を使っているわけではなく。身体の急所以外の極力頑丈そうなところで攻撃を受けているだけの話である。
 一撃一撃が、常人ならば一瞬で打ち倒されそうな強烈な打撃を、すべて受け止めている。
 のみならず、摺り足のような微妙なフットワークで巧みにオデットの鞭を壁のように遮り続けるマックを、テルプシコルは歯がみしながら見る。
(このバカ! 少しは反撃しろ!)
 あまりのマックの打たれ強さに焦れてきたのか。
 オデットはオーラを厚くまとい、ジンにとどめを刺したときの言魂を紡ぎ上げた。
「『ローズタトゥー!』」
 パァン!
 マックは鞭が身体に当たる瞬間に、素早く振るった腕で鞭を叩き飛ばした。

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