#128:カリテア近郊、山中(十)

 そして、オデットが完全に見えなくなってから。
 見るからにボロボロのマックだったが、勢いよくメイミィの方を振り向き
「怪我はなかったか!?」
 と、自分のことは思いっきり棚上げして、勢いよく尋ねた。
 まったく無傷のメイミィ、目を丸くするとやや苦笑気味に答えた。
「大丈夫。だって、マックが全部攻撃を受けてくれたから」
「そうか、そいつァ良かった」
 ほうっと、安堵の溜息をついて、マックはテルプシコルをチョロッと見た。
「お前さんは大丈夫だな」
「……ああ、大丈夫だとも」
 たった一言&一瞥で片付けられたテルプシコルは、ずいぶんな対応の違いに憮然とした表情でマックに答える。
 そんなテルプシコルには欠片も頓着せず、マックは倒れて気を失っているジンに歩みよる。
 座っているような感じにジンの上体を起こして、後ろから抱きかかえるように身体を支えた。
「意識が落ちてるからな。放っておくと、危ねェやな」
 と言いながら、膝でぐっとジンの上体を固定して。
「……鋭ッ!」
 と、気合い一発。活入れをする。
 一拍の間を置いて、ジンの顔に赤みが差し、ふうっと息を吹き返した。
「……?」
 とろんとした目で、あたりを見回すジンだが、正直なところ事態がまるでつかめない。
(僕は……あの賞金稼ぎの人とやりあって……それで)
 どこまでが夢で、どこからが本当かわからない。そんな記憶を整理する。 
 目の前には、心配げに見つめるメイミィと、気がかりな感じで見ているテルプシコルの顔。
「おう、目が覚めたな」
 そして。傷だらけだが笑顔のマックが目に入り、ジンはなんと無しに事態を把握した。
(——負けた、のかな?)
 その心中の疑問が聞こえたか否か。
 マックは、血まみれの顔を笑み崩してジンの顔を覗き込む。
「お前ェに免じて帰るとよ。頑張った甲斐があったな、ジン!」
 そういうと上機嫌にカラカラと笑うマックだった。
 そして、ジンの前に立つ筋肉の壁をテルプシコルは両手で押しのけた。
「どけ、傷を治す」
 無数の裂傷やみみず腫れ。首のところに青い締め痕。そして、胸元に残った薔薇の形をした痣——無数の痛々しい傷痕を複雑な表情で見て。
「……あまり、無理をするな」
 と、テルプシコルは小声で言い置いてから、オーラをまとった。
「——つつがなく癒えよ」
 ジンの身体が、テルプシコルの言魂に呼応して光につつまれる。
 胸元から薔薇の痣が消え、傷口もふさがっていく。が、さすがに直しきれないほどの傷を負っており、テルプシコルは溜息をついた。
 その横で、メイミィも苦笑しながらジンに言う。
「そうだよ、無茶しすぎ。心配したよ、ジン」

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