#129:カリテア近郊、山中(十一)

 そのメイミィの言葉を受けてテルプシコル。じろりとマックを見ながら言う。
「ここに荒事が得意なヤツがいるのだから、任せればよいのだ」
「あ……!」
 そこでメイミィ、気が付いたようにマックを見る。
 全身あちこちから盛大に血が流れ、目を見張るほどにボロボロである。
「マック、ごめん! 傷治すよ!」
「おう、すまねぇ。しかし、ミュートスってな便利なもんだなあ」
 言いながらどっかりと座り込むマックの前に立ち、メイミィは息を長く深く吸い込みオーラをまとう。目を閉じて精神を集中し、手のひらをマックの肩に置いて目を閉じたまま。
「『——早く治って』」
 と、言魂を紡ぐ。次の瞬間、マックの大柄な身体が光に包まれる。
 光が収まり、大きな傷はふさがったものの、とても全部直しきれない——明らかにジンよりも深い傷をみて、メイミィ。呟くようにマックに言う。
「……マックも、頑張りすぎ」
「そらァ、頑張るさ」
 ニカッと笑ったマックは真っ直ぐメイミィの顔を見ながら、迷い一つ無い瞳と口調で言う。
「好きな女を守る為だからな」
 かああっ。
 この上なく真っ直ぐ言われちゃったものだから、メイミィは大赤面して視線を外した。
「え、あ……も、もお——調子狂うなあ」
 そして、その横でこの上なくジト目のテルプシコル。
「どうせ、私は眼中にないのだろう?」
 と、面白くなさそうに言う。
 別段、マックから『好きな女』と言われたいわけでも無いのだろうが。
 それはそれとして、最初からアウト・オブ・眼中では面白くない。

 テルプシコル、当年とって三百十九歳。
 ——難しい年頃である。

 それをある程度察したのか、マックはテルプシコルに向かってニヤリと笑う。
「ああ。でも、テル助もまとめて守るから心配はいらねェよ」
 マックに『もののついで』扱いされたテルプシコルは、ふんと鼻を鳴らして言い返す。
「お主こそ心配無用。自分の身くらい、自分で守る!」
 そして『人の好意は素直に受けるのが肝要だぜ』『好意どころか悪意すら感じるわ!』なんて掛け合いを意識の端で聞きながらジンはグローブをはめた拳をギュッと握りしめた。
(これじゃ、いけないよ……) 
 明らかに手加減をしてくれていた相手に、ただの一撃すら入れられなかった。
 いっぱしのロゴス使いだと自負していたジンに、この事実は重くのしかかった。
 そんなジンとマックの傷——癒しの言魂でも治りきらないほどの無数の傷を見ながら。
「ここまで怪我しちゃうとねぇ……」
 と、溜息をつくメイミィだったが、腕を組んでうーんと考えた後、テルプシコルの方を見る。
「とりあえず、ある程度治るまでここに泊まろうよ」
「そうだな。さっきのオデットとやらもしばらくは来ぬだろう」
 と、メイミィの提案にテルプシコルは頷いた。
「薬草を摘んで路銀も稼がねばならぬしな」
 と、あたりを見回すテルプシコルに
「そうと決まったら、カレーだな」
 寸毫の迷いもなくマックは断言する。
 『怪我』と『路銀』と『カレー』——これらの因果関係がさっぱりとつかめなかったが
「……お主の傷を癒すためだからな。好物を食べるのも良かろう」
 なにか言いたげにテルプシコルは言葉を飲み込んで頷いた。
 上機嫌なマックとそれを苦笑気味に見るメイミィ。
 ふうっと、呆れ風味の溜息をつきながら小屋に入るテルプシコル。
 そんな、いつもの通りの皆から少し離れたところで、ジンは無言でたたずむのだった。

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