#130:カリテア近郊、樵小屋(一)

 そうして、一行はこの小屋にさらに泊まることとなった。
 テルプシコルとメイミィは薬草を摘みに。マックは手持ちの材料でカレーを作りはじめる。
 ジンも薬草を摘みに行くと志願したが。
「いいから、寝ておれ!」
 と、テルプシコルの鶴の一声が炸裂し、小屋に残ることになったのだった。

 そして、マックは手際よく調理を進めていた。
 輪切りにしたナスと細かく刻んだニンニク・タマネギを炒め。
 火が通ったら合い挽き肉を入れ、さらに炒める。
 その後水を入れてからちょいと煮込みつつ、仕上げにカレー粉を入れ、さらに少し煮込んだら『ナスと挽肉のカレー』ができあがる寸法だ。
 最終課程の煮込みをくつくつと、マックはなんともうれしそうにやっている。
 そこへ、ジンが思い詰めた表情で足音をたてず、静かに歩いてきた。
 マックから数メーター後方で歩みを止め、言葉を探す風にマックの背中を眺める。
「お、ジン坊か?」
 背後から近づいてきたジンの方を見てもいないのに。
 ジンの接近を気配で感知したマックは、鍋から顔も上げずに口を開いた。
「少し待ってろ。もうちょっと煮込んだら完成だからよ」
 と、上機嫌に鍋をぐるぐるとかき回すマックを、少し丸くした目でジンは見た。
(やっぱり、すごい……)
 ジンも今まで野宿ばかりの旅暮らしである。野草を摘んだり魚釣りをするほかにも、弓矢やナイフで鳥や獣を捕って食べていたりもした。
 その要領で静かに近づいたはずなのに……あっさりと接近を感知されてしまった。
 こんなところでも自分の未熟さを知らされて、さらに暗い顔になりつつも深呼吸一発、ジンは真顔で話を切り出した。
「マック……話があるんだけど」
「なんだ?」
 ゆっくり顔を上げたマックに、ジンはなるべく簡潔に言おうと言葉を探しながら口を開く。
「僕に戦い方を教えて欲しい」
 その言葉を聞いて、マックは少しだけ意外そうな表情を見せて
「怪我も治る前から、急にどうした?」
 と、さらにジンに問いかけた。
 どうやって話そうかと考えながら、ジンは少しうつむき加減でゆっくりと話し始めた。
「今日の事で、ハッキリ分かったんだ」
 ジンは口惜しげに唇を噛み、マックから目線を外す。
「——僕は、弱い」
 レードルで鍋の中をゆっくりとかき回すマックの手が止まる。
 そんなマックの様子に気がついた感じでもなく、ジンはなおも悔しげな表情のまま
「少なくとも、今日みたいな敵から皆を守る事なんかできないくらいに」
 と独白のように言い、もどかしげに拳を握り込む。
 勇んで立ち向かったオデットに、子供扱いであしらわれたことが——迫り来る鞭をどうにもできなかった焦りが、鮮明に記憶の中からよみがえる。
「それじゃ、ダメなんだ」
 くつくつ……
 弱火で煮込まれ、時折泡を立てている鍋から顔を上げず、マックはお気楽な口調で尋ねた。
「何がダメなんだ?」
「え……?」

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