#131:カリテア近郊、樵小屋(二)

 ここで質問がくると思っていなかったものか、戸惑いの表情を見せるジンに向かって、マックは鍋をゆっくりかき混ぜながら言葉を続ける。
「今日だって、お前は良く頑張った。メイミィもテル助も頑張った」
 何か言いたげに立っているジンに向かって、マックはお気楽な感じに微笑んで見せた。
「それで、丸く収まったじゃネェか」
 確かに——目を覚ましたときに、オデットはいなかった。
 だけど、自分が倒された後、マックがオデットの攻撃をすべて受けきり——恐ろしく強力な一撃をも含めて——テルプシコルとメイミィを守りきったこと。
 その後でメイミィとテルプシコルの攻撃を受けて、オデットが戦意を喪失したこと。
 そして……『その坊やに免じて帰る』とセリフを残し、オデットが帰ったこと。
 その話を聞いたときに感じた、何とも言えない切なさとやるせなさを再び感じながら、お気楽な表情を見せるマックに、ジンは深刻な表情のまま言った。
「……弱いと、守れない」
 渦巻く想いを、混乱する言葉を。
「皆を守れない——誰も守れない」
 考えながら、整理しながら。ジンは訥々と語った。
「今までは、守って貰う側だった。今日も、結局は守って貰った」
 目を覚ますと目の前に敵はおらず、傷だらけのマックが笑って立っていた。
 テルプシコルには困ったヤツを見る目で見られた。
 ——弱いのに無理して戦うな、と。
「でも、僕は……守る側にならなきゃいけない」
 この世界に目覚めたテルプシコルを、守りながら共に旅をすると決めた。
 自分と共に旅をする妹を守ると決めた。
 それは自分の拳に自信があったから。
 ——アークに鍛えられ『素質がある』と褒められた拳に、自信があったから。
 でも。
 その自信が、単にうぬぼれだと分かった今。
 それでも、想いは変わらない自分を認識した今。
 グラブをはめた拳を強く握りしめ、マックの目を見てジンは言った。

「強くなりたいんだ、マック!」
 
 今までずっと黙ってジンの話を聞いていたマックは黙って頷くと、荷物の中からカレー皿を取り出した。
 無言で米を盛り、できあがったばかりのルーをかけ。
「まず、食え」
 と、ジンに差し出した。
 そのカレー皿を見たジンは思わず目を丸くする。
 ——それはいつもの小さな皿ではなく、マックと同じ大きさのカレー皿だった。
「強くなるにはたくさん食べてからだを作ることだ」 
「じゃあ……」
 と、眼を丸くするジンに向かって。マックはニヤリと笑った。
「俺の教え方は荒っぽいぞ。覚悟しておけ」
 マックからしてみると、守るべき対象だったジンである。
 そんなジンが自分へ弟子入りを志願するという、そんな嬉しさを感じてマックは機嫌良く笑う。
 そして、そのマック——新しい師匠からカレー皿を受け取って、ジンはしっかりと頷いた。
「ありがとう、マック!」
 そのカレー皿はずしりと重く。
 その重さの意味を実感しながら、ジンはマックに笑顔を見せたのだった。

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