第7章:再会

#132:ダフニ近郊、宿場町(一)

 ゴートの『行動示唆』を受け、帝都を旅立ったアークは二週間ほど経った頃、とある街道沿いの宿場町に立ち寄った。
 ちょっと休みたいな、と思ったアークの眼に一軒の石積みの家——これがまた、まるで大きさのそろっていない石を無数に積み上げた危なっかしい造りだった——が映った。
 よく見るとその建物は酒場のようで、建物の裏には酒樽が積んであり、その酒樽の上には残飯目当てなのか猫が数匹ひなたぼっこをしている。
 アークはそんなことを見て取って頷くと、マントを跳ね上げながら中に入っていった。

「はい、いらっしゃい」
 愛想があるんだか無いんだか分からないような、ひげ面の親爺がカウンターの中から最低限の挨拶を投げる。
 荷物を床に置き、スツールに腰を下ろし。
「ウゾを」
 と、割合強めの酒をアークはオーダーする。
 あいよ、と。
 親爺は即答してグラスの中にウゾを注ぎ、そして水を注ぐ。
 水を入れた瞬間に白く濁る、アニス酒特有の事象をなんとなしにアークは眺めた。
「お兄さん、騎士さまかい?」
「ああ、そうだ」
 親爺の問いに答えて、出された水割りをグイッと飲む
 それを見て、親爺はつまみのタコのぶつ切りとオリーブを皿の上にのせて出す。
「やっぱり、アレかい? ミュートス狩りかい?」
「……まあ、そんなところだな」
 その答えを聞き、少し考えるようになった親爺だったが、ややあってアークに小声で告げた。
「この近くに、ミュートスがいるんだよ」
 ほお、と。水割りを飲む手を止め、顔を上げるアークに親父が言う。
「子供ばかりでな。山の中に誰も使ってない小屋があって、そこに寝泊まりしてるみたいだ」
 ぴく、と。
 片眉が跳ね上がり、興味深そうにアークは親爺の顔をまじまじと見た。
「怪我してるのがいるとかでな。たまに女の子が山の中で摘んできた薬草を売って、食べ物買って帰って行ってるよ」
 水割りのグラスに口をつけ、アークは心中で頷いた。
(……テルプシコル達、か?)
 里でじっとしていると思いきや、旅に出ていたのかもしれないな……と考えつつ。
 オリーブを一粒口に放り込み、プッと種だけはき出してアークは親爺に尋ねた。
「まだ、その山の中にいるのか?」
「さあね、オレも見に行ったワケじゃないから」
 そうか、と。
 タコを一切れつまんだアークは少し目を丸くする。
「……うまいな」
 ニイッと親爺は嬉しそうに笑う。
「今朝、良いタコ入ったんだよ」
「なるほど」
 釣り上げたタコを、思いっきり岩場に何度も叩きつけ。そして、軽く天日で干す。
 そうすると身が柔らかくなるそうだが、何にせよそうしたタコをぶつ切りにして軽く火であぶった後、たっぷりのオリーブオイルとレモンの汁でマリネする。
 酒のつまみとしてはなかなか良い一品である。
 アークのグラスの中身を見て、水差しと酒瓶をカウンターに置いた親爺は少し首をかしげるように付け加えた。
「朝に同じようなこと聞いて言った兄ちゃんがいたから、もしかしたらもういないかもな」
「騎士か?」
 いやいやと首を振り、親爺はなおも話を続けた。
「なんか妙な仮面をかぶってる兄ちゃんでよ。すっと細い感じで。賞金稼ぎにも見えなかったけど、騎士にも見えなかったなあ」
 水割りをステアするアークの手が止まった。

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