#133:ダフニ近郊、宿場町(二)

「……仮面?」
「おうおう。女の子連れで……それも、ずいぶんと変わった子でよ」
 なにやら神妙な面持ちになったアークに、親爺はうんうんと頷いた。
「なんてんだい……こう、頭の上からスッポリとかぶるようなマントを付けててな。その兄ちゃんがここでワイン飲みながら話をしてる間、そこの……」
 店の脇、酒樽が積んであるあたりを親爺は指さす。
「樽のトコに座って、つまみで出したタコを何切れか持ってよ。猫と遊んでたんだよ」
 ちょうどつまみ上げたタコを見て、アークは頷く。
「そしたらよ、猫が何匹も何匹も寄ってくるんだよ。その女の子に」
 と、そこまで話すと親爺はちょっと気味悪そうな表情になった。
「ここいらの猫は確かに人になれてるんだけど、なんてんだい……まるで話ができるみたいに猫と遊んでるんだよ」
 話がまるで読めずに、アークは首をかしげてグラスに口をつける。
 親爺は気味悪そうな表情のまま
「『こっちに来てください』とか『君は膝の上』なんてその子がいうと猫がその通り言うこと聞くんだよ」
 と、話すと首を数回横に振ってみせた。
「いくら人になれてるって言ってもよ、野良猫だからさ。そんなに言うことなんか、聞きはしないよ」
 改めて、アークは酒樽の上にたむろする数匹の猫を見た。
 視線を感じても知らんぷりという感じで、お気楽にひなたぼっこをしている。
 それを見て親爺、何とも不思議そうに苦笑した。
「その子が帰ってから、オレも試してみたけど。タコ食ったら猫はみんな、ぷいっとどこかに行っちまったさ」
 おかしな子だったよ、なんて言っている親爺に適当に相づちを打ち、アークは酒を口に含みながらゴートとの話を思い出す。

 ——ただ、なにせミュートスの力は我らにとっては未知のもの。
   たとえば……モンスターを手なずけ、けしかけてきていたりするのかもしれない。

 再び外の猫に視線をやり、アークは思案げに眼を細めた。
(猫ができるなら——モンスターだって、元は獣だ)
 水割りを一息であおり、独白するように呟いた。
「今朝の話……か」
「ああ、今朝って言っても陽はずいぶん高くなってたからな。そんなには経ってないぜ」
 二〜三時間前ってトコじゃないか?と親父。言った後でニヤリと笑う。
「だから、先にミュートスを探し出せば出し抜けるかも知れないぜ」
 そうだな、と。
 頷いたアークは、銀貨を三枚カウンターにおいて席を立った。
「え、こんなに良いのかい!?」
 水割り二杯に、オリーブ一粒、タコ二切れ。
 間違っても銀貨がどうこう言う勘定ではなかったが。アークはマントを羽織り直しながら
「いい話を聞かせて貰った。その礼も兼ねてだ」
 と、眼を丸くしている親爺に言うと、おもむろに荷物を背負い
「では」
 と、酒場を後にする。
 そして、親爺はそんなアークの背中にエールを送る。
「頑張ってなー! 妙な仮面の優男に負けるんじゃないぞー!」
 そんな親爺の声を聞きながら。
 アークは表情を引き締め、山中へと分け入っていくのだった。

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