#134:ダフニ近郊、山中(一)

 聖イリオンの王城でまみえた、仮面の君——『スフィンクス』。
 アークはひと目みただけで
(あやしい……)
 と、感じていた。

 ここ最近、頻発しているミュートス狩り部隊がモンスターに襲撃される事件。
 キマイラと呼ばれる謎のモンスター。
 そして——動物を自由に操ることができるという、仮面の君の従者『ネメア』。

 情況証拠、ですらないただの疑惑。
 それでも、アークにとってあの二人が
(ミュートス狩り部隊襲撃の実行犯ではないのか……)
 と、容疑をかけるに足るものであった。
 そして、今。
 あの二人も、アークが追う伝説のミュートス
『ムーサイの巫女——テルプシコル』
 を追っていると判明したことにより、その疑惑はさらに深まった。
 アークは酒場の親爺に聞いた通りに草深い山中に分け入った。
 斜面は背の高い雑草に覆われていて、通る隙間などないかのように見えるが、よく見ると藪の中に獣道と思しき細い道が山中に向かって伸びていた。

(なるほど……酒もつまみも情報も間違いなかったというわけか)
 思いのほか、真面目な性格だったと思われる酒場の親爺に胸中で礼を述べつつ、アークは山中を進んでいく。

 しばらく——数十分道無き道を登ったころだろうか。
 先の方から人の気配を感じ、アークは歩みを止めた。
 もとより、警戒して極力足音を抑えながら歩いてはいたものの、更に慎重に——まるで狩りをしている時のように——歩みを進めた。
(あれは……!?)
 果たして行く手の先にいたのは、追い求めていたスフィンクスとネメアであった。
 ネメアが真剣な表情で地図を見て、その横でスフィンクスがやや緊張のおももちで——まあ、表情の半ばは仮面で見えないのだが——佇んでいた。
 二人の口が動いているのも見て取れる。

(何を話しているんだ……?)

 アークは気配を完全に絶ち、二人の様子を間近から探るべく木々の間に身を滑り込ませた。
 ややあって、首尾よく何を話しているのか聞き取れる距離まで近づいたが、やはり仮面に隠れたスフィンクスの表情を覗うことはできない。
 ただ、仮面に覆われていない口元は引き締まっているものの、決して不機嫌な風には見えなかった。
 ネメアは地図から顔を上げて、少し固めの口調で話し出す。
「この先にいらっしゃると思います」
「ゴート卿の情報通りですね。一度帝都に戻ったのが良かった」
 ネメアの報告に満足気に深く頷き、行く手を見つめるスフィンクス。
「酒場のご主人の言うこととも一致しました……でも」
 そんなスフィンクスとは裏腹に、やや不安げな表情でネメアは地図に目線を落とした。
「——信じて貰えるでしょうか?」
 その一言で、スフィンクスの身が固くなる。
 その様子を見たか見ないか、ネメアはさらに言葉をつなぐ。
「帝国に先んじることは出来ました……でも、それすら……言うなれば帝国の情報によるものですから……」
「それも、そうですが……」
 ふうう〜……
 少し長めに息を吐き、天を仰ぎながら。
 スフィンクスは、自分に言い聞かせるように
「とにかく……お会いしなければ」
 と言いおいて、歩き始めようとする。
 その背中に、なおも暗い表情でネメアは声をかけようとした——その瞬間。

「そこまでだ」

 大きな樫の木の影から歩み出たアークは、二人の行く手を阻むように前に回りこんだ。

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