#137:ダフニ近郊、山中(四)

「バカな……!?」
 敵の攻撃の威力を、まるまる衝撃波として弾き返して相手を吹き飛ばす。
 結果として、せっかく詰めた間合いは再び広がり、再びオーラの矢の間合いに入ってしまうこととなった。
(やはり、この男は強力なミュートス使い……だが、これほどとは!!)
 目論見が崩れ、苦々しい表情をみせたアークに、スフィンクスは余裕の表情で微笑みかけた。

「アークトゥルス卿ともあろう高名な騎士が……『妙な仮面』に遅れを取るのはいただけませんね」

 ひょっとして——お気に入りの仮面だったのか?

 そんな疑問を浮かべる暇も与えずに、スフィンクスはオーラ弓を形成する。
「『ミスティックアロー!』」
 迫りくる必中の矢をアークは睨みつけた。
「いい気になるな……『クロムサーフェス!』」
 激しく言魂を放った次の瞬間、オーラの盾がアークの身を覆い隠した。
 オーラの盾に直撃した光の矢は、一拍の間を置いて勢い良く弾き返された。
 ——放った本人めがけて。
「な……馬鹿な!?」
 オーラの矢の直撃を受けた肩を押さえて、スフィンクスは焦った様子で間合いをとりなおした。
(相手の攻撃を威力もそのままに跳ね返す——そんな芸当が……ロゴスで出来るとは!)
 一般的に、ロゴスの技はオーラを直接的に攻撃に使うことがほとんどである。
 だからこそ、我が身に喰らった攻防一体のアークの技にスフィンクスは驚きを禁じ得なかった。
(……技を磨いて、磨き抜いたからこそ出来る技)
 そんなロゴスの常識から外れた大技を決めたアークの表情に奢りの色はまるで無い。
 そして、冷静に次の一手を探っている風の騎士を見て、スフィンクスは仮面の下の瞳を細める。
 (さすがは『熱き氷のアークトゥルス』——ですね)

 冷静沈着。
 常に騎士としてどうあるべきか。
 そのことをすべての念頭に置いて、氷のごとく冷徹とも言える判断を下す。

 ところが。
 その根底には、熱い魂がたぎっており。
 騎士としての情熱は、誰にも負けるものではない。

『たとえ冷たい氷でも——冷たさを徹すれば、火傷を負わせることすらできる』

 正義に燃える熱き心と、鋼の自制心による氷のような冷静さ。
 帝国の双拳と呼ばれたほどの、騎士の中の騎士である父から受け継いだ二つ名。
 ——『熱き氷』。

 由来は知っていた。
 が、相対してはじめて、その二つ名の本当の意味を実感できた。
 スフィンクスは、敬意を込めてアークを真っ直ぐに見据えるとすうっと息を吸い。

 「……どうやら、技の出し惜しみをしている場合ではなさそうですね」

 と、言って全力でオーラを練り上げた。
 そして、その瞬間にアークは気がつく。
 今までのスフィンクスのオーラが——『遠慮がち』なものだったということを。
(ついに……本気になったか!?)
 ミュートスは神に選ばれた、優れた素質を持つもののみが使うことができる言魂。
 父親から聞いたこの言葉を、アークは嫌というほど実感していた。

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