#14:神殿前の泉(二)

「何の音だ!?」 
「どないしたンやー?」
 流石に異変に気がついたのだろう。音のしたほうに向かって、アークとクニスカが神殿の脇から走り寄った。
 そこで二人が見たものは——何かをやりきったような表情で泉のほとりに立っているメイミィと……水面に顔だけ出して、憮然とした表情で泉に浮んでいるジンの姿だった。
「ジン……二人になってるデ」
 細い目をさらに細めて、二人を見比べるクニスカ。
「……泉の中にいるのがジン、か?」
 服装で見分けたものか、呆気にとられたような表情で言うアーク。
 冷静に考えると結構な非常事態なのだが、あまりに絵面がおもしろ……いや、理解不能なためにアークもクニスカもオーラすらまとわず成り行きを見守っている。
「あ、あれ?」
 そして、事態の成り行きに困惑するメイミィ。
(だって、幽霊だったら……どなりつけたら消える、って……あれえ〜?)
 混乱するメイミィのすぐ近くに、ジンがのそのそと泉からはい上がってきたのを見て。
 メイミィ、相当に不機嫌そうな表情のジンにおそるおそる尋ねる。
「もしかして……幽霊じゃない、のかな?」
「……まだ、生きてる」
 渾身の言魂《ミュートス》を食らって吹き飛ばされたジンはむーっとして言いつつ、じろっとメイミィを見た。そして次の瞬間、ジンの目は丸くなるのを通り越して点になった。
(僕と同じ顔!?)
 怒りよりも驚きが優先したのか呆気に取られたかのように自分の顔を眺めるジンに、メイミィは実に申し訳なさそうな表情で深々と頭を下げてみせた。
「ごめんごめん! この泉には自分の幽霊がでるって爺様に聞いてたから……つい」
 そして『女物の服を着たジン』と『ずぶ濡れのジン』を見比べて。なんとなーく事情がつかめたアークは神殿の脇にすたすたと歩いて行くと、すぐにジンの荷物を手に戻ってきた。
「とりあえず、着替えろ。風邪をひくぞ」
 アークはそう言って『ずぶ濡れのジン』に荷物を渡す。当のジンは毒気の抜かれた表情で、うん……と頷き着替えを受け取ると、そのまま神殿の裏手に歩いて行く。
「……さあて、とお」
 それまで黙って様子を見ていたクニスカ。こちらも事態の把握ができたのだろうか、糸のような目を面白そうに細めて、メイミィに言った。
「そしたら、お話しよか?」

 ——それから約七分後。
 完全に水に濡れた服の始末に手こずったジンが戻ってくると……
「十四歳かあ! エェなあ、一番かわいいころやンかいサ」
「え〜、そんなコトないのに……」
「なるほど、年齢まで同じなのか」
 とか、お茶なんか飲みながらすっかり打ち解けている三人を発見した。

(……どういうこと?)

 いきなり攻撃を受けた身としては、何となく解せないものを感じながらジンは荷物を下ろす。
 ジンが戻ってきたのに気がついてクニスカは面白そうにニヤっと笑った。
「お、幽霊が戻ってきよったデ」
「幽霊?」
 きょとんとして聞き返すジン。そして、メイミィはクニスカの脇で赤面した。
「もお……ごめんっていったの、に……?」
 言いながら、メイミィジンの顔を凝視する。驚きと、何より興味とがないまぜになったような表情で、ぐいっと顔を近づけて穴が開くくらいの勢いで見つめた。 
「……な、なに?」
 割合に至近距離で見つめられ、ジンは照れくさそうに赤面してメイミィに尋ねる。
 その質問を受けて、メイミィはうーんと考え込む仕草を見せた。
「もしかしたら、なんだけど……」
 確信の持てない、ちょっと困惑したような表情でメイミィは言葉を探すようにゆっくりと、でもハッキリとした口調で話し始めた。
「私、物心付いたときからお母さんしかいなかったのね」
 自分と逆なのかと頷くジン。その後ろで、興味深そうにアークとクニスカも話を聞いている。
 そしてメイミィは過去の記憶をたぐりよせるように目を細める。
「それで、ね……」
 と、メイミィはジンの顔を真っ直ぐ——何かを確かめるように見つめた。そして、少し間を空けて。記憶の彼方の手がかりを確認するかのように静かに話を続けた。
「わたしには双子のお兄ちゃんがいて、お父さんとお兄ちゃんは私たちが生まれた直後に里を出ちゃったんだって……お母さんは死んじゃったんだけど、死ぬ前に聞いたの」
 自分にとってあまりに——『どこかで聞いたような話』すぎて、ジンは目を丸くする。
 そして……そのジンの目は、次の一言でさらに大きく見開かれることになる。

「わたしのお兄ちゃんの名前は……ジンって言うんだって」

公開 : (1840文字)

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