#140:ダフニ近郊、山中(七)

 そして、文字通り岩をも砕き、文字通り大地を切り裂くアークの拳が存分に振るえるように。
 ジンもゆっくりと茂みの方へ下がっていった。

「おおっといっ!?」

 そこに、突然マックが茂みをかき分けて飛び出してきた。
 ジンに衝突する直前に、マックは驚異的な反射神経と規格外の跳躍力でジンの頭上を飛び越し、そして着地するやジンの方を振り返った。
「ジン助、このばっか野郎! そんなトコに止まってるヤツが……?」
 そこまでまくしたてたものの、さすがに状況に疑問を感じたのかマックは黙った。
 ゆっくりと背後を振り返ると、そこには見たこともない仮面の戦士と、フードをかぶった少女が豆鉄砲を喰らった鳩のように目を点にして立ち尽くしていた。
 そして。
 愕然、と言った表情で——アークは構えを解き、棒立ちのままマックを見ていた。
 そんなアークを見て、マックも吃驚仰天な反応をみせる。
「アーク! アークじゃねェか!?」
 そのマックの叫びを聞いて、ジンはマックの顔を見た。
「知り合いなの?」
「ああ、騎士時代のな。ガキ時分からのダチだ」
 言いおいて、マックはジンに向かって屈託のない顔を見せる。
「騎士養成施設の同期でよ。同じトシなんだよ」
 へぇ〜と。
 いつも一緒にいるカレーが好きな大男が『元・帝国騎士』だったことを、ジンは改めて思い出していた。
 その間、棒立ちだったアークだったが、表情は驚きのそれのまま、ようやく口を開いてマックに尋ねた。

「何故……何故、マック……ここにいる?」

 それは明らかに尋常ではない様子で、ジンはもちろんスフィンクスやネメアも心中で首をひねったが、当のマックはまるで頓着する素振りを見せずにふん、と鼻を鳴らした。
「今、ミュートスの姫さんと旅をしてるんだ」
 そこまで言って、プッと小さく吹き出す。
「姫さんってな言い過ぎか? そんなに良いモンでもねぇやな。まあ、でも——300年前は王族だってぇから姫さんだな」
 その軽口とも取れるマックの言葉を聞いて、アークの目がさらに見開かれた。
「……テルプシコルか?」
 そのアークの問いに、どこか楽しげにマックは答える。
「おう、そのテル公だ」
 そのやりとりを聞いて、スフィンクスとネメアは揃って
「テルこ……!?」
 とか、なにやら眼を白黒させていたがマックはまるでお構いなしな感じでアークに尋ねた。
「なんだ、テルの字と知り合いだったのかい?」
 知り合い、という平和な間柄では無論なく。
 呼び起こされるのは、屈辱的な『惨敗』の記憶である。
 無言のまま表情を引き締めるアークを見て、マックは『ははーん?』と訳知り顔になった。
「さては、アーク……ミュートス狩りをしにきやがったな?」
 図式としてはまさにそのとおりなので反論もできず、黙って佇むアークに向かって。
「残念だな。テル助にゃあ、俺ってェ用心棒が付いてるんだ。他を当たるんだな」
 マックはグラブをバシバシ鳴らしながらスフィンクスの前に出て、アークと向き直った。
「それか、納得いかなきゃ……ちょいとやり合ってみるか?」
 ここまで言われて、なおオーラを解かないアークにだいぶ面白そうな表情でそう言うと、マックは勢い良く拳に息を吐きかけた。

 ——ごおっ!

 そんな音が聞こえそうな勢いで、マックの全身が一瞬でオーラに包まれた。
(何者ですか、この人は!?)
 先程からオーラを練っていたアークに匹敵する、あるいはそれ以上のすさまじいオーラにスフィンクスはただ圧倒されていた。

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