#141:ダフニ近郊、山中(八)

 ネメアも同様で、荒れ狂うと言っていい勢いのマックのオーラを口に手を当てて呆然と見ていた。
(アーク……どうしたんだろう?)
 ジンだけは普段のアークを知るだけに、ただマックに圧倒されている彼を不思議な気持ちで見ていた。
 確かにマックのオーラは凄まじいが、アークが彼と同じかそれ以上の凄まじいオーラをまとっているのを何度も目の当たりにしているからだ。
 そして、割とやる気充分なマックと、その後ろに控えているスフィンクス、そしてジンを青ざめた顔で見回して、アークは首を横に振った。
「今日は俺が引く……いずれ」
 ようやくそれだけを言い、アークはオーラを解くのもそこそこにこの場を立ち去っていったのだった。

「まったく、相変わらず融通がきかねェヤツだな」
 少し苦笑気味に、マックはそう言うとなんとも残念そうな表情をみせた。
 おそらくアークと闘いたかったのだろう。
 そんなマックの横で、ジンもちょっと寂しげな表情でアークを見送った。
「本当に、そうだね……ちっとも、変わってないよ」
「ちょっと会わないくらいで変わるわきゃねぇやな、あの頑固……」
 ……ん?
 と、そこまで言ってマックは不思議そうに首をかしげた。
「……ジン、なんでアークを知ってるんだ?」
 当然といえば当然の疑問に、どうやって説明しようかちょっと考えた後で、ジンは口を開いた。
「父親が死んだ後……僕がまだ子供の頃に、襲ってきた盗賊から助けてもらって。その後、アークとあちこち旅をしながらロゴスを教わったりしたんだ」
 それは、とても昔のことのように思えた。
「……テルプシコルやメイミィと会うまで、ね」
 と、自分で補足を入れるまでは。
 それを聞いたマックはなんとも素直に驚きの表情を浮かべて
「はぁ〜……世界ってのは、広いようで狭ェなあ」
 と、目を丸くした。
(普通、こんなにすぐに信じないよね)
 とか思いながら、ジンは思わず苦笑する。
「本当に、そうだねえ」
「全く、吃驚仰天の介だな——ところで」
 どうしたらよいものやら。
 そんな感じで立っている仮面の戦士とローブの少女をマックは親指で指しながらジンに尋ねた。
「一体、何があったんだ?」
「あ! 大丈夫だった?」
 それなりにアークの打撃を喰らっていたスフィンクスに、ジンは駆け寄った。
 言われたスフィンクスもジンのその一言で我に返ったものか、オーラを解いて目の前の二人に向き直った。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます、助かりました」
 そう言ってジンとマックに頭を下げたスフィンクスに
「なァに、いいってことよ」
 と、軽く手を振ってそう答えると、マックはへたりこんだままのネメアの前にしゃがみこむ。
「おい、ちっこいの? 大丈夫か?」
 いきなりちっこいの呼ばわりされたネメアだったが、ちょっと赤面しつつ一挙動で立ち上がった。
「だ、大丈夫です! すみません!」
 立ち上がって見たものの、しゃがんでいるマックとそれほど背丈が変わらないのを見て
(この子も小さいけど、マックが大きすぎるんだよね)
 と苦笑しながら、ジンはネメアの方に近づいた。
「さっきはごめんね。鍛錬で山を走っていたんだけど、前をよく見てなかったから」
「い、いえ!こちらもぼ〜っとしてましたから、すみません!」
 頭を下げたジンに向かって、ネメアも深々と頭を下げる。
「いやいや、ぶつかるのは修行が足りねェ証拠だ。なぁ、ジン坊」
 そう言いながら、頭に手をおいてジンの頭を下げさせているマックに、スフィンクスが歩み寄った。
「私はミュートスの戦士でスフィンクスといいます」
 それから、ジンの方も見ながら話を続ける。
「テルプシコル様と一緒にいらっしゃると、お見受けいたしました」

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