#142:ダフニ近郊、山中(九)

 テルプシコル『さま』!?
 折りたたまれた腰を伸ばしながら、ジンはぎょっとした表情をみせた。
 マックも驚きを隠さず、目をまんまるにしてスフィンクスに尋ねる。
「テル吉かい?」
「テルき……ええ、はい」
 こほん、と。軽く咳払いをしてスフィンクスは言う。
「私達はテルプシコル様を捜す旅をしているものです」
 その後ろから、ネメアもすがるような目でマックを見上げた。
「どうか、お引き合わせいただけないでしょうか?」
 まったく予想だにしていなかった意外な展開に、ジンはただ言葉を失った。
(……テルプシコルを捜す旅……って!?)
 ミュートスの間では、一体どのような存在なのだろうか?
 姫さまと言っても三百年前の王族なのに、と。
 色々な考えが渦巻く中
「『さま』とは、恐れいったな」
 と、ひとりごちながら苦笑いするマックの横で、ジンは少し固い表情で頷いた。
「少し奥に行ったところの小屋にいるから、ついてきて」
「ありがとうございます!」
 深々と頭を下げるスフィンクスとネメア。

 そして、礼を述べたあとは無言のまま、緊張の面持ちでジンのあとに続く。
 そして、事態の全容が全くつかめぬまま。
(やっぱり……テルプシコルはすごいんだなあ)
 と。
 ジンは神妙な面持ちで、獣道を進むのだった。

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