#145:炭焼き小屋の中(一)

「はい、どうぞ〜」
「ありがとうございます」
 メイミィの入れたお茶を受け取りながら、スフィンクスとネメアは違和感を覚えた。
 そして、その違和感の原因に同時に気がついた二人は、メイミィを見て、ジンを見て……また、メイミィを見て、ジンを見て
(同じ顔……?)
 と、目を丸くするのだった。
 さすがに慣れっこになってきたのか、メイミィはにっこりと笑いながらジンを指さした。
「双子なんだよ」
 ジン、頭を下げる。
「驚かせて、ごめんなさい」
「い、いえそんな」
「逆に、失礼しました!」
 恐縮するスフィンクスとネメアにあははと笑いかけながら、メイミィは紅茶をいれる。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
 メイミィが差し出した木製のカップをスフィンクスは丁寧に両手で受け取った。
(あー……わたしも男の人かと思ったけど、手は女の子だねぇ)
 と、カップを渡すときに触れた細くしなやかな指の感触から、メイミィはそんな感想を抱いた。
 そして、同じく男性だと勘違いしていた風のテルプシコルは温かい紅茶を一口すすると、ふう〜っと長い息をつく。
 人心地ついたのか、テルプシコルは少し気まずそうな表情で頭を下げる。
「……すまない、取り乱してしまった」
 取り乱す、というレベルではなかった気もするのだが。
 いえいえ、と逆に恐縮して首を振る二人……いや、スフィンクスの顔をまじまじと見ながら
「カリオペ……か」
 と、テルプシコルは少し遠い目になりながら語り始めた。
「三百年前。私が眠りに付く前、イリオンの王室に……お主に生き写しの男がいたのだ」
 少し考えると、突拍子もないこの話を当然のように受け止めて頷いている。
 そんなスフィンクスの目をテルプシコルはまっすぐ見た。
「名をオレステスという。私の……」
 と、一瞬言いづらそうに言葉を詰まらせたが、意を決したように続きを語った。

「——許婚だった」

 その一言で、その場にいる全員が驚きに目を見開いた。
 ジンも驚きながら記憶をさかのぼり
(……例の馬車の時のひと、かな?)
 と、以前テルプシコルから聞いた眠りにつく直前の話を思い出す。
 スフィンクスとネメアも目を丸くしながら、一瞬お互い顔を見合わせたあとでゆっくりと頷いた。
「そうでしたか……」
「お姉さまに……」
 テルプシコルはなおも沈んだ表情のまま、スフィンクスの顔を見る。
「以前、滅ぼされたミュートスの里外れで、遠くからお主の姿を見かけたことがあってな」
「それは……全く気が付きませんでした」
 意外そうなスフィンクスの言葉には特に反応した風ではなく。
 テルプシコルは静かに頭を横に振った。
「私が三百年眠り、生きているのなら……」
 一拍の間。何かを探しているような表情のまま、テルプシコルは独白するように語る。
「オレステスも——もしかしたら……と、思ったのだがな」
 ふっ……
 テルプシコルは自嘲気味に笑みを漏らす。
「すまぬ、忘れてくれ」

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