#146:炭焼き小屋の中(二)

 ジンは沈んだ表情でそんなテルプシコルを見た。
(そうだよね……三百年前って言ったって、テルプシコルにとってはついこの間のことなんだから)
 そんなテルプシコルの心中を慮り、沈黙が場を包むかと思えた時。
「いえ……もしかしたら、全く関係がないとも言えないかも知れません」
 と、スフィンクスは神妙な顔で語りだした。
「私とクレイオが生まれた里は、ミュートス王家の末裔の里であるとされています」
 ネメアもそれに補足するかのように話に加わる。
「ムーサイの巫女と王家の男性の子孫だとか」
 言いたいことがわかったのか、テルプシコルの頬に軽く朱がさした。
 ネメアはそんなテルプシコルに、優しく補足を入れる。
「ですので、そのオレステスさんは我々のご先祖様の可能性もあります」
 改めて、テルプシコルはスフィンクスの顔をじっと見つめた。
 マスクを外した今ならばわかる、記憶の中の彼よりも睫毛が長い優しい顔立ち……
「もし、そうだとしたら……」
 ネメアはテルプシコルを気遣うように微笑んだ。
「オレステスさんは、言魂戦争を生きのびていたのかもしれませんね」
 ずいっと。
 その一言を聞いてテルプシコルはネメアとの距離を詰め、そのまままじまじと至近距離で顔を見た。
「は、はい?」
 目の前にテルプシコルの顔が迫っているからか、なんとなくネメアは顔を赤らめてしまう。
 そして、少し距離をとってからテルプシコルは説明を始めた。
「私が知っているカリオペ——三百年前のカリオペはな。クレイオ、お主に感じが似ていた」
「そうなんですか?」
 と、目を丸くするネメアの顔をテルプシコルは見つめた。
「うむ。幼い感じでな……まあ、実際十三歳とかだと思ったが……お主のように物腰が柔らかく、眼鏡もかけておった」
 なにかを思い出したのか、ネメアを見ながら優しげな笑みをテルプシコルは浮かべる。
「そうよな。カリオペがもう少し大きくなると、お主のような感じになっただろうな」
 三百年前のムーサイは今のムーサイとは違う人物だということは、もちろん理解はしているのだろうが。
 『カリオペに似ている』と言うことが、横にいるスフィンクスに対してどうにも恐縮だと思えるのか、少し居心地の悪そうな、やや照れくさそうな表情でネメアは『はあ』とだけ相槌を打った。
 そして、テルプシコルは今度は顔だけをスフィンクスに向けた。
「で、お主はオレステスに生き写し」
 そこまで言って、テルプシコルは複雑な表情を浮かべる。
 その後で、ゆっくりと独白のようにつぶやいた。

「——そうか。そう言う取り合わせか」

 何やら合点のいった表情になったテルプシコルと、さっぱり話が見えないそれ以外という図式になった一同であったが。
 そんなことはお構いなしとばかりに、誰にともなくテルプシコルは語りづつける。
「まだ、カリオペは子供だったが……三百年もあれば、途中で大人になろうというもの」
 メイミィの『いや、おばあちゃんになっちゃうよね』と言うツッコミにはリアクションせず
「そうか、オレステス……」
 と、テルプシコルは俯きながら唇を噛む。

「私が眠りに付いている間——カリオペと、な」

 最初は何を言われたのかわからず、きょとんと顔を見合わせたスフィンクスとネメアだったが。
 ややあって、テルプシコルの発言の意図に気がついて
(なんか、余計なこと言っちゃいましたかー!?)
 とばかりに、二人とも大慌てでテルプシコルに近寄った。
「い、いや……『もしかしたら』というお話なので、そうと決まったわけでは無いですよ!?」
 というスフィンクスのフォローには目線すら合わせず、なんだか下を向いてブツブツと呟きだす始末である。
 だが、次にネメアがちょっと苦しい感じの笑顔をみせながら
「そ、そうですよ! 里にはムーサイの巫女でも全然違う感じの子が三人もいますし……気になさらないでください、巫女神さま!」
 と言ったこの言葉に、ゆっくりと顔を上げた。
「……巫女神?」

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