#147:炭焼き小屋の中(三)

 この瞬間に話しの流れが変わりそうな雰囲気を感じたものか。
 スフィンクスは『はい!』と頷きながら解説し始めた。
「私たちは、先ほど申し上げたとおり王家の末裔です。巫女として生まれたものは幼い頃から修行を積み、時が来ればムーサイの名を継ぐこととなります」
 そんな説明を——主に背後の三人に向けて交えつつ、スフィンクスはさらに話をすすめる。
「ムーサイの巫女は九人ですが、我々の里にいる巫女は多くて八人——テルプシコルさまの名だけは付けることを禁じられているからです」
「私の名を? 何故だ?」
 意外な方向に進む話に、テルプシコルは首をかしげた。
 そんなテルプシコルの顔を見ながら
「はい、なぜなら……」
 と、ネメアがにっこりと笑顔をみせる。
「古くからの言い伝えで『テルプシコルさまは巫女神さまとして、この大地のどこかで眠りに付き、私たちを護り導いてくれている』と言われていましたから」
 ぽかーんと口を空けているテルプシコルに、さらにネメアは補足を入れた。
「例えば、クレイオの名は私の前にいたクレイオが亡くなることにより私が名を継いだわけですが……巫女神さまは眠りにつかれているだけで、どこかで生きていらっしゃるので『テルプシコル』と言う名を継ぐことはできない——と、言うことなのです」
 その、当たり前のように目の前のテルプシコルのことを『巫女神さま』と呼ぶネメアを見て、他の一同はただあっけに取られて話を聞いていた。
 そして、ネメアの肩に手をおき、一同に向けてスフィンクスが話しだす。
「私たちは子供の頃から、朝な夕なに巫女神さま——テルプシコルさまに感謝の祈りを捧げ、毎日暮らしてきました」
 ネメアもにっこり笑ってこう続けた。
「夕食の前に『太陽と大地と海原と私たちを護って下さる巫女神さま、今日もありがとうございました』と言って——世界と巫女神さまに、今日一日の感謝をしてからお食事を始めているんですよ」
 その話を聞いてから、少しの間を置いて
「すごいなあ、テルちゃん」
 と、ようやくそれだけをメイミィは呆然と呟く。
「うん、すごいね……」
 と、これまた毒にも薬にもならない返事をジンは呟いた。
「そのようなこと……ただ眠っていただけだぞ。それも三百年も。頼りがいがないにも程があるだろう」
 照れくさそうに、テルプシコルは顔を赤らめた。
 それは、いつらわざる本心だったのだろうが
「そんなことありません」
 と、スフィンクスは否定するように首を振りながらにっこり笑う。
「そのお陰で、私たちの里は今まで何事もなく過ごせてきました」
 スフィンクスの言葉に同意するようにネメアは頷き、そして尊敬の眼差しでテルプシコルを見た。
「巫女神さまは、本当に神様なんですね」
 まっすぐに尊敬の念を表す現役のムーサイの巫女二人と、ただただあっけに取られる当の本人と双子一組。
 なんとも言えぬ沈黙が少しながれたその時に

「神様!? コレが??」

 と、それはそれは素直かつ猛烈に失礼な感想をマックがぶちかました。
 あっけにとられる現役ムーサイたちを他所に関心したような、バカにしたような表情でテルプシコルの顔を覗き込む。

「だとしたら、ずいぶんと大人げのねェ神様がいたモンだなァ」
「……ずいぶんと無礼な騎士もいたものよの」

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