#148:炭焼き小屋の中(四)

 ひたすら持ち上げられて居心地が悪かった空気がいっぺんに吹き飛ぶのを感じつつ、テルプシコルはむーっとした表情で目の前の大男に言い返す。
 ちょっと苦笑しつつ、スフィンクスはマックに向き直った。
「そういえば、まだお名前をお伺いしていなかったのですが……」
 ネメアも同様にうんうんと頷く。
 そりゃ失礼とばかりに、マックは屈託なく二人に名乗った。
「俺はマクラウド。マックでいいぜ。よろしくな」
「……よろしくお願いします」
 何かに引っかかりながら、しかし、その何かが思い出せない。
 そんな感じのもやっとした気持ちになりながら、スフィンクスは頭を下げた。
 だが、次の瞬間。
「マクラウ……っ!?」
 ネメアは何かに気がついたとばかりに、口に手を当てて立ち尽くした。
 そして、マックの方に詰め寄る勢いで質問を投げた。
「マクラウド卿!? あの、マクラウド卿ですか!?」
 そのネメアの反応でスフィンクスも何事かに思い当たったのだろう。
 同じく驚きに目を大きく見開いて、マックの顔を見た。
「【かく灼の轟腕】マクラウド!? まさか……!」
 あまりに大げさなリアクションに、テルプシコル、ジン、メイミィの三人は自体が全く飲み込めずにフリーズする。
「今はただのマクラウドだ」
 当のマックはまいったなとばかりに苦笑いして、頭を軽く振った。
「ミュートスの力になりたくて、騎士を辞めたからな」
 その一言は、驚きの表情を浮かべている二人をさらに驚かせた。
「本当に、噂通り……!」
「なるほど……それで——」
 なおも何か話そうとする二人を遮るようにマックは言った。

「だから、俺は『マック』だ。それでいい。そう呼んでくれ」

 そんなマックに向かって、スフィンクスは柔らかく微笑んだ。
「……わかりました、マック」
 スフィンクスの横でネメアもにっこりと笑顔でマックに挨拶する。
「はい。よろしくお願いします、マックさん」
 おう、と気楽に答えてから、マックの表情に疑問符が浮かぶ。
「で、だ。スフィンクスとカリオペと、どっちで呼びゃいいんだ?」
 そんなマックの素朴な疑問に、ちょっと考えた後でスフィンクスは答える。
「わがままを言って申し訳ないのですが、仮面をかぶっているときはスフィンクスと呼んでいただけますか? クレイオも普段は『ネメア』と名乗っておりますので、そちらで」
 そして、少し申し訳無さそうに補足する。
「仮面を外しているときには、できれば本名でお願いいたします」
「おう、合点承知の助だ」
 どん、と胸を叩いてマックは大きく頷いた。
「じゃあ、よろしく頼むぜ姐さん。ちびっ子もな」
 マックの一言に、両名は目を点にする。
 その後ろでテルプシコルは、はあ〜っと長いため息をついた。
「何のために呼び名を確認したのだ、お主は」
 実にごもっともなツッコミであった。

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