#15:神殿前の泉(三)

 息をのんで驚くクニスカ。何だと、と思わず口に出すアーク。
 その前で、ジンは……ただただ、呆気にとられて立ち尽くしていた。
 そして、呆然と自分を見るジンを見たメイミィだったが、不安げな表情で、しかし、期待を込めた瞳で『自分の幽霊だと思った男の子』に尋ねた。
「——もしかして、お兄ちゃん?」
 あまりのことに、なんと言っていいのか言葉が見つからず、答えを返すこともできずに絶句したままのジンを見て、アークはいつもと変わらぬ落ち着いた口調で尋ねた。
「お前はどう思う……ジン?」
「ジン!?」
 その名前を聞いて、メイミィは思いっきり目を見開いて驚いた。そんなメイミィを……自分と同じ顔の少女を見たジンは
(まだ、自分は気絶しているのではないか? 夢の中での話なのではないか?)
 ——そんな思いで、ジンはぽつりぽつりと話し出す。
「父さんは、僕が生まれてすぐの時に、まだ赤ん坊だった僕を連れて旅に出たと言ってた」
 うんうん、と。
 思いっきり力が入った感じで食いつくようにメイミィはジンの話を聞いている。
 ジンはそんなメイミィを見ながら、昔の記憶を……忘れることなど出来ない記憶を引っ張り出し、胸のペンダントに手を当てながら語る。 
「父さんから死ぬ間際に聞いたんだ……僕には、赤ん坊の時に生き別れた双子の妹がいるって」
 それを聞いて、メイミィの瞳はこれ以上丸くならないというくらいに見開かれた。
 はあ〜、とあきれたような、感心したような表情でクニスカはため息をつく。流石に驚きの表情でアークも首を横に振った。
 そして、ここに至ってメイミィは不安よりも期待を強くした表情で、ジンに詰め寄った。
「じゃあ……やっぱり、お兄ちゃん?」
 ぱあっと、明るい顔で近寄ってくるメイミィをジンは困惑した表情で見る。
 それはあまりに現実味が無く、あまりに実感がわかない事実だった。
 おそらくそうかもしれないと思いながらも、ジンは戸惑いの表情を浮かべ
「これだけだと、何とも言えないよ……」
 と、メイミィに告げる。そして、メイミィがきょとんとしているのを見て、なにかを思いだした表情でジンはメイミィに言った。 
「だいたい、いきなり人を泉にたたき落とすような妹がいるなんて想像もしてなかったし」
 う、と言葉を詰まらせた後で、メイミィはむうっと頬を膨らませた。
「そ、それは謝ったでしょー!?」
 ここでメイミィ、まさかの逆ギレである。
 あまりの理不尽さと、それを吹っ飛ばす言葉の勢いにたじろぐジンに、メイミィはさらに逆ギレをかました。
「だって、自分の幽霊は、自分を殺してすり替わるって言うんだもん! 『絶対に幽霊だー!』って思って必死だったんだよ、こっちも!」
「そ……そんなの理由にならないだろ!?」
 ジンもさすがに言われっぱなしは癪にさわったものか、思わず言い返す。
 そして言い返されてみると、確かに理由にならない気もするので思わず口ごもるメイミィに、ジンはそこが突破口とばかりに猛然と反撃を開始する。
「だいたい、この歳で幽霊なんかいるって信じてる方が子供過ぎるって!」
「あー! よくもいったなあ!?」
 痛いところを突かれて。メイミィはムキになって言い返した。
「だいたいねぇ! 男の子なのに、私と体格が変わらないっておかしいでしょ!? 普通に背が高かったり一目見て男の子だったら、わたしだって見間違わないもん!」
「なんだよ!? 逆を言えば、そっちが男みたいな体型だってことじゃないか!」
 言われたメイミィ、顔を真っ赤にして両の拳を胸の前で合わせた。
「なに、それって胸!? 胸のはなしなの!? レディに対してしつれーきわまりないし、会ったばっかの妹をそんな目で見るなんて、ジンのえっちすけっちわんたっちーっ!」
「だ、誰もそんなこと言ってないだろーっ!?」
それはそれは盛大に口げんか(しかも低レベル)をしている二人を、生暖かく見守る帝国騎士の二人は、お気楽にお茶のおかわりなんぞしつつ雑談に花を咲かせていた。
「しかし……ホンマそっくりやなあ」
「男と女の双子は普通の兄弟程度にしか似ないものだと言うが……同じ服でも着られたら、見分けが付かないな」
 感心したように話すクニスカとアークであった。
 こんなのんきな会話の向こうでは、なおも激しいバトルが繰り広げられているのだが、特に二人とも内容については頓着していない。
「しかし、考えてみるとジンが同年代の子供と話しているのを初めて見るな」
「そっかあ。まあ、そらずっとアンタと一緒やし、なあ」
「確かに、考えてみると接点がなかったな」 
「そら、そうやな。アンタがジンを引き取ったときには驚いたワ」
そんな感じで、ジンとメイミィのバトルを見ながら、和やかに雑談を続ける。
 『喧嘩は当人同士が納得するまでとことんやらせておこう』という考えのアークと、『口げんかで死ぬこともないし』という考えのクニスカ。
 止める気なんか、さらさらないのである。

公開 : (2020文字)

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