#152:炭焼き小屋の中(八)

 ネメアの一言を拾ったマックは、そう言って懐かしそうに笑った。
「まだ、ゴートの頭にもうすこし髪の毛が乗っかってた頃でなあ」
「いや、それは……」
 額の上の方をぽんぽんと叩くジェスチャーを見て、スフィンクスは苦笑する。
 懐かしい記憶をたどるように、マックはゆっくりと話し続ける。
「家柄もヘッタクレもない、どこの馬の骨とも知らない俺に……『余の騎士になるか?』と声をかけてくれたのが、陛下だった」
 ぎゅっ……と。
 拳を強く握りこみ、使い込まれたグラブがきしんだ。
「結局は騎士を辞めちまったが、そのご恩は忘れたことはねェ」
 マックは遠い目で空を見上げた。
 まるで、誰かの顔がそこに浮かんでいるかのように。
「そうか……陛下が……」
 立ち上がり天を仰ぐマックの表情は、ことさらに小柄なテルプシコルには覗うことはできない。
(帝国皇帝……私にとっては不倶戴天の敵だが、マックにとっては恩人なのだな)
 テルプシコルは普段とは違うマックの姿を、複雑な想いで見ていた。
 そして、メイミィは背伸びしてマックの肩をぽんと叩く。
「よし……今日はわたしが晩ご飯を作ってあげよう!」
 メイミィの顔を見るマックに、ことさらに元気な笑顔を見せて
「お客さんもいるし、腕によりをかけちゃうぞ!」
 と、メイミィは腕まくりをしてみせた。
 それを見て、クレイオもにっこりと笑う。
「わたしも手伝います、えっと……」
「メイミィ。よろしくね、クレイオちゃん」
 言いながら差し出されたメイミィの手を、ネメアは即座に握り返す。
「よろしくお願いします!」
 あっという間に意気投合したふたりは、仲良くお互いが持っている食材を見ながらわいわいと献立を決め始めた。
 その様子を優しげな目で見ていたスフィンクスだったが、居住まいを正してテルプシコルの方に向き直った。
「それで、これからどうされるのですか?」
 問われたテルプシコルは、ちょっと考えこむ風にうつむき
「今は、ミュートスの里を探して旅をしているのだが……」
 と、話したところで嫌なことを思い出したのだろうか、顔を歪めた。
「ただでさえ手がかりが少ないところに持ってきて、ミュートス狩りに襲われたのか、里を探し当てても誰も残っておらぬことばかりでな」
 はあっと、幸せが裸足で逃げそうな勢いでテルプシコルはため息をつく。
「正直、途方に暮れておったところだ」
「なるほど……」
 と、スフィンクスは深刻に頷く。
 テルプシコルはさらに嘆かわしいとばかりに首を横に数回振った。
「しかも、我らにもミュートス狩りの手が伸びてきてな……幸い撃退できたから良かったのだが……」
 もう一回ため息を付いて、脇に座っているジンとマックを見ながら
「まあ、当面はこの二人の傷が癒えるまで、数日ここに滞在するつもりだ」
 と、なんとも不景気な表情でテルプシコルは話を締めた。
 スフィンクスはそれを聞くと、
「ぜひ、滞在する間だけでもご一緒させて下さい」
 と、提案をした。
「色々お聞きしたいこともありますし」
 ネメアもその後ろから頭を下げる。
 それを受けて、テルプシコルは即座に頷いた。
「ああ、かまわんぞ」

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