#154:炭焼き小屋の中(十)

 メイミィの独白に一同は笑う。
「そういえば、そうだな」
「気が付かなかったよ」
「まァ、こんだけ美味けりゃ、かぶり大歓迎だ」
 マックは細かいことを気にするなとばかりにオムレツをパクついている。
 卵の中でよく炒めた玉ねぎとさっと炒めたじゃがいもとハム、たっぷり入れたチーズとが絶妙なマッチングを見せていた。
「このタコスというのは初めて食べるな」
 野菜たっぷりの名前通り、レタス、トマト、きゅうり、にんじん、アボガドをたっぷり入ったタコスだった。
 どちらかと言うと、肉々しい料理よりも野菜メインの方がテルプシコルの好みである。
 作者のネメアはにこにこしながら説明する。
「旅の途中で覚えたんです。お野菜たくさんとれますよね」
 説明するネメアの横で、スフィンクスが普通に食べているところを見ると、きっと調理担当はネメアなのだろう。
 料理が苦手なムーサイとしてスフィンクスにシンパシーを感じながらも、初めて食べるタコスをテルプシコルは気に入ったようだった。
「中に入っているひき肉もスパイスが効いていて良いな。この皮は何でできているのだ?」
「小麦粉とトウモロコシの粉です。香ばしいですよね」
「なるほど。うまい」

 そんなこんなで。
 賑やかな夕食の時間が、ゆっくりと過ぎていく。

「なんだか、私だけ何もしていないようで心苦しいですね……」
 と、ひたすら食べ役に徹していたスフィンクスが独白するように言った。
 まあ、この夕食だけピックアップすると、まさに仰せのその通りである。
 スフィンクスはメイミィの方を向いて言った。
「よかったら、稽古を付けましょうかメイミィ?」
「え?」
 言われている意味がつかめなかったのか、メイミィはきょとんとした。
 そして、スフィンクスはタコスを片手に苦笑する。
「いや、私は料理が苦手で。正直、戦うことが一番得意なのです」
「なるほどー」
 争いを憎み、平和を愛するムーサイの巫女らしからぬスフィンクスの告白に、メイミィはふむふむと頷いた。
 スフィンクスはメイミィに向かって拳を作ってみせる。
「メイミィはミュートスで戦っているということですから。お役にたてるかと」
「やった! こっちからもお願い。戦い方を教えて!」
 メイミィとスフィンクスはガシッと力強い握手をした。
 その成り行きを、食事の手を止めて呆然と見ていたジンに向かって、マックはニヤリと笑う。
「ちゃんと修行しねェと、メイミィにおいてかれるぞ」
 う……と詰まったジンだったが、しばらくして
「……がんばろう」
 と、深く頷く。
「いいから、まずは怪我を治せ!」
「う、うん!」
 すかさず入るテルプシコルのツッコミと、慌てて返事するジンの様子を見て、皆が笑った。
 そして、わいわいと賑やかに話しながら夜は更けていくのだった。

公開 : (1150文字)

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