#155:炭焼き小屋〜夜(一)

 夜が更けて、皆が寝静まったころ。
(アーク……変わってなかったな)
 ジンは寝付けず、寝返りを打ち続けていた。
 昼間に再開したアークのことを考えて眠れなかった。
(やっぱり、ミュートス狩りをしていたのかな……)
 眠ろうとするが、目を瞑ると色々な考えが浮かんで、なんとも眠れない。
 ため息を一つついて、ジンは考えをまとめようと外へ出ることにした。
 外へ出ると、空には雲が多く、雲間からところどころ星が見えているような感じだった。
 かすかな星明かりに照らされて、外に出たジンはあるものに気がついた。
(……テルプシコル?)
 建物から少し離れて影になっているところで、空を眺めているテルプシコルを見つけたのだ。
 声をかけようと数歩近づいたが、そのあまりに寂しげな後ろ姿を見て躊躇して立ち尽くす。

「ジンか……?」

 ジンの気配に気がつき、テルプシコルは振り返った。
 その弱々しい声、沈んだ表情を心配しながらジンはゆっくりと近づく。
「大丈夫、テルプシコル?」
「……何がだ?」
 強がりすら見せきれず。
 力ない声で、テルプシコルはジンの問いに質問で返す。
 ジンもなんと言っていいのか悩みつつ、単刀直入に切り出した。
「許嫁の人……残念だったね」
 ぴくっ。
 テルプシコルの肩が、かすかに跳ねる。
(やっぱり……そのことを考えていたんだ)
 食事の時は無理をしていたんだな、とジンは寂しげな表情になる。

 そして、テルプシコルはジンの方を見ずに空を見上げた。
 ジンもつられて空を見る。
 雲と、雲間から覗く星だけが視界に写った。
「オレステス……オレステスのことをな」
 ぽつり、と。
 テルプシコルは話し始める。
「カリオペを見ていると……思い出してしまうからな」
 はあ……
 テルプシコルは重いため息をつく。
「三百年前のご先祖様、か」
 テルプシコルの視線の先、星の向こうに何をみているのか。
「……私にとっては、つい……」
 ぎゅ。
 小さい拳を強く握る。
「つい、先日のことにしか——思えない」

 なにか、いわなきゃ。
 でも……なにをいえば?

 テルプシコルにかける言葉をジンは探した。
 だが、かけるべき言葉が見つからない。

「——思い出したのだ」

 ぽつり、と。
 語り始めるテルプシコル。
「我ながら情けないことだが……目覚めてから今まで、すっかり忘れていた」
 改めてジンは気がついた。
 テルプシコルの胸元に——あのブローチが輝いていることを。
「聞いてくれるか、ジン……?」
 ぐっと、胸元に当てた右手でブローチを握り。
 テルプシコルは昔の——三百年前のことを語り始めた。

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