#156:王城——イリオン暦五二五年

 ——イリオン、王城。
 カルデアの兵が蜂起し、いままさにイリオンへと攻め込もうとしているとき。
「だから、私も闘うといっている!」
 まなじりをキッとあげ、テルプシコルはオレステスに詰め寄る。
 そんなテルプシコルに向き直り
「ダメだよ」
 と、オレステスは駄々をこねる子供を諭す口調で言う。
「ムーサイの巫女を、闘いで穢すわけにはいかないよ」
 だが、と言いかけるテルプシコルの顔を真っ直ぐに見てオレステスは言った。
「だから、僕が闘って——君を守る」
 その言葉を聞いて、テルプシコルはしばらく黙っていた。
 無言のまま、胸元に輝くブローチを外す。
「このブローチは災厄を除けると言う。持って行け」
 帝国王家の紋章が輝く……先代テルプシコルの遺品であるブローチだった。
「ありがとう」
 と、笑顔でブローチを受け取ったオレステスに、テルプシコルは
「勘違いするな。プレゼントしたわけではないぞ」
 と、少し拗ねたような顔で言った。
 それを聞いて、オレステスは切れ長の瞳を丸くする。
 そのオレステスの顔を
「そのブローチは、私のお気に入りだからな。貸すだけだ」
 少し上目遣いに見上げるように見つめながら
「……わかったか、オレステス」
 と、テルプシコルは呟くように彼に告げた。

 オレステスはその言葉にゆっくりと頷いた。
「わかった。必ず返しにいくよ」
 その場でブローチを胸元につける。
「約束だ、テルプシコル」
 にっこりと、微笑んだ。
 そして、その場に立ち尽くすテルプシコルに向かって
「じゃあ、行ってくる」
 と、手を上げたオレステスを
「気をつけて行け……!」
 と、テルプシコルは泣き笑いのような表情で見送ったのだった。

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