#157:炭焼き小屋〜夜(二)

 その話を、ジンは切ない表情で聞き終えた。
「そんな、ことが……あったんだ」
 テルプシコルは、そのジンの言葉に力なく頷く。
「なぜ、忘れていたのか……」
 小箱の蓋を開け、蓋の裏を見ながら
「——これを見るまで、思い出しもしなかった」
 と、悲しげに呟いた。

 ジンは蓋の裏に文字が書いてあるのに気がついた。
 そこには古風な、しかし読みやすい綺麗な字で

『約束、守れなくてごめん——どうか、幸せに』

 と、書いてあった。

 はあぁ……
 テルプシコルのため息が震える。
 ともあれ、なぐさめなきゃと近づくジンに、テルプシコルは消え入りそうな声で言った。
「ジン……向こうを向いてくれ」
 言われるままに、ジンは背を向ける。
「……すま、ぬ」
 とん。
 ジンの背中に頭を当てて。
「……もしかしたら」
 ぎゅっ。
「生きて……と……おもった、のに」
 ジンの服を両手で掴み。
「わたしを……まもる……と」
 こみ上げてくる想いに言葉が詰まる。
「必ず、かえしに……くる、と……」
 胸元のブローチをぐっと掴んで。
「自分で……こなければ……意味が、ない……だろう」
 声を震わせ、テルプシコルは言う。
「しあわせに、など……なれるかっ!」
 感情を抑えることは、すでに出来ず。
「どうして……どうして——オレステス!?」
 テルプシコルは、ジンの背中に感情をたたきつけた。
「私だけ……わたしだけっ……!!」
 あとは、もう。
「うっ……くぅっ……」
 言葉に、ならなかった。

「……ぅわああああああああ!!」

 ジンの背中に顔をうずめ。
 テルプシコルは、赤子のように泣きじゃくる。
 ジンは慰めることはおろか、身じろぎすらできなかった。

 ただ、テルプシコルの泣き声を。
 悲痛な叫びを聞いていることしかできなかった。

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