幕間③:休息

#159:炭焼き小屋、かまど前(一)

 約束通りにスフィンクスは滞在中、メイミィに稽古をつけた。
「里にいた頃は相手がいなかったので、私も修行になります」
 と言いながら、かなりハードな稽古をつけていた。
 メイミィも今まで気が付かなかったミュートスの使い方を学んだり、相当に有意義な稽古となったようである。

 そして、ネメアはテルプシコルから昔の——イリオン時代の話を聞いていた。
「このような話が面白いのか? ムーサイの普段の儀式なぞ、もはやイリオン亡き今となっては無用だろうに」
「とんでもない! 現代のムーサイとして、失われた知識は少しでも埋めておきたいですから」
 ネメアはテルプシコル探索に特化した特殊なムーサイと違って、本来の意味でのムーサイの巫女である。
 イリオン時代の色々なことがとにかく興味深いらしく、色々と話を聞いていた。
 テルプシコルの方も可愛がっていた『昔のカリオペ』に似たネメアはやはりどこか可愛いらしく、上機嫌に話を続けていた。
 そして、ジンとマックの怪我人コンビは、テルプシコルとネメアからダブルで癒しの言魂を受けて、どんどん傷が癒えていた。
 それはそれとして、マックの
「怪我の時には怪我の時の修行があるンだ」
 と言う言葉通りに、ランニングや筋力トレーニングなど基礎体力をつける修行を念入りに行なっていた。
 ジンも明らかに最初よりも体力がついたことを実感できていた。

 スフィンクスたちが合流した数日間。
 それぞれが充実した、しかし、平和な時を過ごしていた。

 そして、四日目の朝。
 「今日も天気だ、おっはよーさん! ……っとくらあ!」
 ざばあ!
 朝からテンション高く、上機嫌に顔を洗うマックの姿がそこにあった。
 朝一番のランニングを終えたところだが、疲れた様子など微塵もみせない。
 同じくランニングを終えたジンは、そんなマックに歩み寄った。
「おお、終わったか。速くなったな」
 最初はマックにおもいっきり遅れをとっていたランニング——道無き山道を駆け抜ける——だったが、このところ体力がついてきたのか、持ち前の身軽さを利して、それほどタイムに差がつかなくなってきたのだ。
 ジンは頷くと、マックの顔を見上げる。
「今日、カレーの日だよね?」
 それを聞いて、マックの顔がぱあっと明るくなる。
「おお! なんだ、お前も楽しみにしてたのか!?」
 あまりのテンションの高さに、ちょっと驚いたような表情になったジンには構わず、マックは変わらぬ上機嫌な体で話し始めた。
「ヤッパ、カレーはうまいからなあ。本当は毎日でも良いんだが、ナニ。十日にいっぺん位の方が、待ち焦がれてさらに美味しくいただけるって寸法だ」
 十日スパンでは『待ち焦がれた』ということにはならないとおもう。
 ジンのそんな感想はまるっと考慮されずに、マックはすぱーんと景気良く手を打って笑った。
「さあ、どんなカレーにするかな! 腕が鳴るなあ!」
 言ったあとで、あーでもないこーでもないとプランを練っているマックに
「あの、さ」
 と、ジンは言う。
 上機嫌なまま話の続きを待つマックに、ジンは寸暇の迷いを見せたあとでこう言った。
「良かったら、作るのを手伝わせてくれる?」

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