#160:炭焼き小屋、かまど前(二)

 その言葉に、マックは大いに目を見開いてみせた。
 思えば……今まで『いよーし!手伝え、ジン坊!』とか言ってなし崩しに手伝わせたことはあっても、こうして最初から手伝うと言い出したことなど無かった。

(——そんなにカレーが好きになったのか)

 マック、ちょっと感無量。
 少し、うるっときている風情で天を仰いだ。

「いや、あの……違うっていうか」
 ジンは、なんか勘違いしちゃってる風のマックにおずおずと補足をいれた。

「テルプシコルを……その……」
「テル吉?」

 いきなり出てきたテルプシコルの名とカレーの関連がマックにはとんと掴めずに、意外そうな顔でジンを見る。
 ジンはなんと話し始めたらよいものかまとまらないまま、マックに説明を始めた。
「あの、テルプシコルって……マックの作るカレー、好きだよね?」
 マックの方も話が読めないまま、とりあえず頷く。
「ああ。なんのかんの言って、結構うまそうに食べてるな」
 ジンはそれを聞いて。言葉を探しながらマックの顔を正面から見る。
「テルプシコルさ……ほら、カリオペが許嫁じゃないって、ショックを受けてて……ね」
 ね、って言われてもな。
 そんな風にぽかんとしてるマックに
「その……だから」
 なおも全く考えと言葉がまとまらないままに、ジンは話を続ける。
「おいしい物を食べて……少しでも、元気になってもらいたいって言うか……えっと……」
 おもいっきり赤い顔でしどろもどろに話すジンを見て、マックはこの上なく目を丸くした上に、口をぱかーんと開け放った。

(……なあるほど、なあ)

 マックの顔に理解の色が広がる。
 そして次の瞬間。

 ——どしっ!

 人類の基準から少しばかりはみ出したごつい手で、マックはジンの背中をどついた。
 けほっ、と軽く咳き込むジンの顔をマックは、実に面白そうに笑ってのぞき込む。
「じゃァ……ちょいと凝ったのを作ってみッか」
 え、と。
 ジンは、ちょっと驚いた顔でマックの顔を見た。
 マックは、本当に楽しそうな表情でジンに尋ねる。
「ジン助、お前野菜の皮むき上手かったよな?」
 ちょっと呆けたあとで、マックの言わんとしていることがわかったのか、ジンはいい笑顔を見せた。
「うん! アークの料理を手伝ったりしてたから」
 それを聞いて、マックは面白そうにガハハと笑う。
「アークのアレか!? あれァ、料理たァ言わねェだろヨ!」
 まさに仰せのその通りで、言われたジンもあははと笑うしかない。
 マックは胸の前で何か大きい荷物を抱えるようなジェスチャーをしてみせる。
「野菜をいっぱい入れてヨ。鶏肉も骨ごとブツ切ってガッと入れてヨ。元気の出るカレーにするからな」
 マックは、ジンに向かってオーバーアクション気味にサムアップしてみせた。
「野菜の下ごしらえ、まかせたぜ」
 ジンも、元気よく頷いてマックと同じくらいのオーバーアクションでサムアップしてみせた。
「うん、まかせて!」
 マックとジンは顔を見合わせて笑うと、揃って台所へと向かうのだった。

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