#161:炭焼き小屋〜居間(一)

「戻ったぞー!」
「あ、お帰りなさい!」

 時刻が午後三時を回るころ。
 見るからに上機嫌な顔をして、マックが買い出しから帰ってきた。
 出迎えたネメアに、ニコニコしながら買い物袋を掲げてみせる。
「ほらほら、見てみろ!」
 カボチャ、にんじん、トマト、アスパラ、レンコン、ジャガイモ……
 マックはごろごろと新鮮な野菜を取り出す。
「美味しそうですね」
 スフィンクスはそう言いながら、まだ泥のついたままのにんじんを手に取った。
 羽根をむしって、内臓を抜いた丸鶏も袋から出てきて、テルプシコルをぎょっとさせる。
「これで今日は“ベジタブル・チキンカレー”を作ろうと思う」
「マックさんがお料理するんですか?」
 目を丸くして驚く風のネメアに、マックは機嫌良くニヤリと笑ってみせる。
「おう、期待してろよ」
 それから、鶏の皮が駄目なヤツはいるかとか、辛さの好みとかを聞き取りを開始。
 特に、スフィンクスとネメアは初カレーだと言うことで、念入りにリサーチが入る。
「よおし、だいたい分かった」
「よいしょ、と」
 その間、居間で見せびらかした新鮮な野菜をジンが台所に運ぶべく、買い物袋に入れなおして担ぎ上げた。
「ジンも手伝わされるんだ?」
 メイミィはそんなジンに向かって、ちょっと気の毒そうに苦笑して問いかける。
 ジンは微笑みながら首を横に振る。
「今日は自主的に。おいしい物を食べて元気になろうって」
 ふうん、とメイミィはわかったようなわかんないような表情になった。
「楽しみにしているぞ、ジン」
 テルプシコルの言葉に、ちょっと顔を赤らめ
「う、うん……がんばるよ」
 と、ジンはちょっとはにかんで答えながら台所へ歩いて行く。
 それをちょっと不思議そうな表情でメイミィは見送った。
 そして、シェフのマックも明らかにサイズの小さいエプロンを着けながら
「うし、じゃあ行ってくるぜ!」
 と、威勢良く台所に消えた。

「……料理、出来るんですね」
 ちょっと意外そうに呟くスフィンクスに、メイミィは苦笑しながら答える。
「カレーだけねー。それ以外は私たちが作ることがほとんどだよ」
「というか、アヤツに任せるとどんな食材もカレーになるからな」
 机に頬杖を付きながら言うテルプシコルに、ネメアは苦笑しながら尋ねる。
「カレー好きなんですか、マックさん?」
「好きなどと言う、生やさしい次元ではないわさ」
 テルプシコルはそう言うと、ちょっと芝居がかった感じにため息をつく。

 自分の食事当番の時には百パーセントの確率でカレーを作る。
 旅先の名産品を見つけたら、かなりの高確率でカレーにしようとする。
 食事のメニューを迷っていたら『手軽にできるカレーとかどうだ?』

 ——あの背負ってる袋、中身の半分はカレー粉ではあるまいか?
   というより、脳みその半分はカレー粉でもう半分は筋肉に相違あるまい。

 そんな思いも浮かぶほどに、目を離すとカレーを作るので油断がならなかった。

 なるほど、と面白そうにスフィンクスは笑った。
「それで、今日は朝から上機嫌だったのですね」
「まあ、な。何せヤツの報酬だからな」
 きょとん、と。
 意味を掴みかねる感じのスフィンクスとネメアに、テルプシコルは補足する。
「ヤツは我々の用心棒と言うことになっているのだ」
 ぽすっと軽い音をたてて、メイミィはテルプシコルの隣に座りつつ話に加わった。
「モンスターに襲われたところを助けてもらって、それからねー」
 ——なるほど?
 と腑に落ちないままスフィンクスは頷く。
「元々は奴が食料を切らせて行き倒れたところを助けてな。その後、『用心棒として雇ってくれ』と言ってきたのだ」

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