#163:炭焼き小屋〜居間(三)

 にっこりと答えるネメアに、テルプシコルは真顔で訊ねた。
「……昔から、それほどにバカなのか?」
 本気の質問に、巫女ニ人そろって首を振る。
「い、いえいえ」
「もちろん、騎士としてです」
 一拍の間。
 スフィンクスはちょっと首をかしげつつ、聞いてみる。
「……本人から、話を聞いてませんか?」
 メイミィとテルプシコルはそろって首を横に振った。
「全然」
「騎士時代のことは、言われてみると全く話さぬな」
 マックらしいですね、と。
 何でか少し嬉しそうに言ったスフィンクスは
「もしかしたら、信じられないかも知れませんが」
 と、前置きをして
「帝都の酒場などで“帝国騎士といえば”と言う話になると【赫灼の轟腕】というふたつ名とともに必ずマックの名前が出る——それほど帝都の人々に親しまれ、尊敬されている……騎士の中の騎士なのですよ」
 などと、突拍子も無いことを言いだした。

「……信じてませんね?」

 言われた二人の様子を見て苦笑するスフィンクスに、メイミィは真面目な顔で訊ねた。

「ねえ……凄く基本的な質問なんだけど」
「なんでしょう?」
「マックって、強いの?」

 その、あんまりと言えばあんまりな質問に眼を丸くした後で。
 スフィンクスは、にっこりと笑って答えを返した。

「はい、とてつもなく」

 予想を越える表現の答えに、絶句するメイミィとテルプシコル。
 そして、続くスフィンクスの説明で、二人は再び絶句することになる。

「マックは——帝国騎士一万余騎の頂点に立つ、最強の騎士と呼ばれていました」
 しばしの間。
 メイミィは、眼をぱちくりさせ
「……はい?」
 と、アホの子の如き呆けた表情になった。
 そんな様子を見てか、ネメアも話し始める。
「帝国騎士のなかで、一番強いひと二人を『帝国の双拳』って呼ぶならわしがあるそうなんですけど」
 すこし、間を空けて。
 おもしろそうにネメアは言う。
「マックさんは、アークトゥルス卿と二人で『帝国の双拳』って呼ばれるはずだったんです」
 スフィンクスは深く頷いた。
「ミュートス狩りの勅命を拒否して、騎士の資格を返上しなかったとしたら、ですが」
 帝国事情通の二人の解説を、もはや無言で聞くテルプシコルとメイミィであった。
 スフィンクスは、そんな二人に補足説明をする。 
「今現在の『帝国の双拳』はアークトゥルス卿の父上であるレグルス卿。それと、マックの師である皇帝近衛騎士ゴート卿です」
 ネメアがそれをうけて、呆けている二人に追い打ちをかけた。
「レグルス卿は行方不明だそうですので……現在はゴート卿とアークトゥルス卿、そしてマックさんの三人が、最強の帝国騎士だと言われているんですよ」

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