#165:炭焼き小屋、居間(五)

 と言うメイミィに、スフィンクスは首を横に振ってみせた。
「それは無いでしょう。たとえば……」
 すこし思案の後に、スフィンクスはテルプシコルを見た。
「テルプシコル様は『テルなんとか』って、呼び方をされますよね」
「ああ。『テル吉』『テル助』『テル太郎』なんでもござれだ」
 むっとした表情で、テルプシコルは答える。
「クレイオも同じですね」
「はい。『クレっ子』『クレっち』『クレの字』と、多彩に富んでます」
 こちらは苦笑しながら、ネメアは答えた。
「そして、わたしは……『姐さん』『カリ姉さん』ですね」
「む? さん付けなのか?」
 聞きとがめたテルプシコルに、スフィンクスは肩をすくめてみせる。
「まあ、一応年上ですし」
 その答えに納得がいかないテルプシコルは、むすっとして言った。
「私だって、眠っている間を勘定すれば三百十九歳だぞ」

 ——いや、そのりくつはおかしい。

 ネメアはちょっと苦笑しつつテルプシコルを見る。
「巫女神さま、かわいいですからねぇ」
「……まあ、見た目が十歳くらいになったのは認める」
 スフィンクスは、むっとした様子のテルプシコルはサクっと無視して、本題に入ることにした。
「マックのクセなのかどうか不明ですが、自分の名も含め名前を略して呼びたがります」
 ほお、と。
 興味深そうに聞くテルプシコルに、なんとなく黙って聞き入ってるメイミィ。
 そして、スフィンクスはトリックを暴く探偵のように話し続ける。
「テルプシコル様はお名前が長めなので略称で、と言う気持ちも分かりますが。私やネメアは略す意味が無いのに略称で呼ばれています」
「確かに『クレの助』とかだったら『クレイオ』の方が早い気がします」
「その他、アークトゥルス卿は『アーク』です。まあ、ジンは名前が短いためか『ジン』と普通に呼ばれてもいますが、『ジンの助』『ジン坊』などとも呼ばれています」
 なるほど、と。頷くネメアを満足げに見やったスフィンクス。
 ビシッとメイミィに向き直る。
「そこで、メイミィです!」
「わたし?」
「メイミィ、マックになんと呼ばれてます?」
 寸暇の思案の後。
 なんか複雑な表情で、メイミィは答える。

「……メイミィ、って」

 おー。
 なんとなく感心するメイミィ以外を、まあまあと手で制しつつ。
 スフィンクスはさらに話を進める。
「これが、マックの真意をあらわしているかと」
 なるほどと頷きながら、テルプシコルも意見に賛同する。
「そうだな。普通に考えれば『メイの助』とか『メイ右衛門』とか呼ばれてもおかしくないな」
 いや、それはそれでおかしい気もするけれども。
 そんなテルプシコルの言葉に頷きながら、スフィンクスは柔らかく微笑んだ。
「やはり、メイミィは特別なので。きちんと名前を呼びたいのでは無いでしょうか?」
 『メイミィは特別』
 なんか、ここがツボに入っちゃったのか、メイミィの顔が一気に赤くなる。
「でも、『特別』とかって良くわからないし……」
 そんなメイミィを見ながら、テルプシコルは『ふふん』と笑って見せた。
「まあ、仕方あるまい。メイミィはまだお子様だからな」

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