#168:炭焼き小屋、居間(九)

 訊ねられて、スフィンクスはテルプシコルを見る。
「そんなに似ているのですか?」
 まっすぐ、自分の顔を見つめるカリオペのことを胸元のブローチに手を当てながら、テルプシコルは少し複雑な表情で見る。
「——生き写し、と言って良いくらいに似ている」
 そうなのですか、と。
 少し寂しげなテルプシコルを気遣うように、スフィンクスは頷く。
 そしてメイミィは、そんなスフィンクスに向かって

「じゃあ、カリオペちゃんもカモン!」

 と、ロープ近くでタッグ相手を呼ぶレスラーのような仕草をして見せた。
「い、いや……遠慮しておきます」
 と、苦笑するスフィンクス。
 なんか、残念そうな表情のメイミィに

「こんなことをするのはお主だけだ!」

 がーっ!
 火を噴きそうな勢いでテルプシコルは、スカートのホックをかけながら猛然と吠えた。

「しかし、殿方に似ていると言われるのも……なんというか、複雑ですね」
 言葉通りに複雑な苦笑を浮かべて、スフィンクスは言う。
「そう言えば、そうだよねー」
 と、メイミィはなんとなしにじーっとスフィンクスを見て、感心したように頷いた。
「でも、カリオペちゃんにそっくりな男の子って……何か、凄くカッコイイんじゃないかな?」
「ですよねっ!」
 うんうん!
 ものすごく勢いよく、ネメアは同意した。
 テルプシコルも同様で、大きく頷いてみせる。
「オレステスは美男子だったぞ。通り過ぎざまに振り返ってみる女官が多かったな」
 言いながらテルプシコルは少し遠い……そして夢見るような瞳になる。
「特に、純白の神官衣を着たときはなんとも言えぬ華やかさもあってな。儀式の時などは若い神官ゆえに脇に控えているのだが、まるでオレステスが大神官の如き空気すら流れていた」
 ここぞとばかりに誇らしげに、自称・元カノがせくしー・ぺったんな胸を反らす。
「性格もお姉さまに似てたのですか?」
 ネメアの問いに、テルプシコルはすぐに首を横に振った。
「いや、性格は少し違うな。もっと場をぐいぐい引っ張るというか、華やかと言うか……パーティでも常に場の中心にいるような社交的な性格だった」
 それを聞いたスフィンクス。なるほどと首を振る。
「それに引き替え……私は【妙な仮面の男】ですからね」
「アークトゥルス卿も、失礼ですよね!」
 ここにはいないアークに憤慨するネメアであった。
 そして、メイミィはそんなふたりを見ながら
(まあ……仮面の時点で妙なひとだよねぇ)
 口には出さず、心中でそんなことを呟いてみた。
 テルプシコルは遠い目のまま苦く笑う。
「ただ……ちょっと完璧すぎてな。オレステスが色々な女性から好意を受ける反面、許嫁たる私に対しての妬みが凄かった」
 ふうっと。
 なにかを思い出したのか、すこし重めのため息をつく。
 テルプシコルは物憂げな感じに、首を数回振ってみせた。
「だから、そう言う殿方の許嫁というのも、常にそれに見合う存在でなくてはと気を張る必要があった。特に人前にでるときには、な。私はどちらかというと、おてんばな方だったのでな。それはそれで疲れたものだ」
 まあ贅沢な話だが、とテルプシコルは話を締めた。
 メイミィは、そんなテルプシコルを肘でつんつんとつついてみせる。

「ほら〜、やっぱりジンくらいがちょうどいいでしょ?」
「それとこれとは話が別だ!」

公開 : (1370文字)

ページトップ