#170:炭焼き小屋、居間(十一)

 メイミィが胸中そんなことを呟いていると、テルプシコルはその横でゆっくりと頷いた。
「そうだな。私もオレステスの事が頭にあったこともあり、はじめは男だと信じて疑わなかった」
 そして、スフィンクスの顔をじっと見つめ、柔らかく微笑んだ。
「今となると、不思議だな。女性にしか見えん」
「そういっていただけて、少し安心しました」
 言葉の通り、スフィンクスは安堵したような表情になった。
 メイミィもお気楽に笑いながら言う。
「お面が良くないんじゃないかな?目元とか隠すし」
「……仮面と言ってください、メイミィ」
 あははと笑いながら、メイミィはテルプシコルの方に向き直った。
「でも、テルちゃん?」
「なんだ?」
 一拍の間。
 言葉を選ぶように、メイミィは話し始める。
「許嫁って事は、カリオペちゃんと結婚を約束した恋人だったってことでしょ?」
「カリオペとではないぞ。まあ、言いたいことは分る。オレステスとはその通りの仲だった、が……」
 何を言い出すつもりだ、と警戒する風のテルプシコルである。
 メイミィは、なおも話を続けようとする。
「それで、ね。そう言う仲だったとしたら、ヤッパシ、その……えー……」
 しどろもどろ。
 ちょっと顔が赤くなっちゃってるメイミィを、テルプシコルは手を振って制した。
「あー、わかったわかった! それだけ言葉をお主が選んでいるのであれば、だいたい何を聞きたいのか読めたから大丈夫だ」
 テルプシコルは、ちょっとあきれたような感じでメイミィの言葉を遮る。
 ふうっと軽いため息をついた後、ちらっとスフィンクスを見た。
「残念ながら、ダンス以外では手を握ったことも無かった」
「え!? そうなの?」
 驚くメイミィに、テルプシコルはちょっと苦笑ぎみに笑ってみせる。
「私は巫女だからな。そう言うことになってしまうと、清らかな身体と言うわけにはいかんからな」
 と話すテルプシコルを見て
「そう言うこと……」
 とメイミィは呟く。
 そして、メイミィの頭上の電球がぱっと灯った。
「もお、なんだあ! 『そう言うこと』って、もー! テルちゃんのえっち!!」
 すぱーん!
 なんか赤い顔で肩を景気よくはたいたメイミィをむーっとした顔でテルプシコルは見た。
「だから、言葉を選んだのだが……お主にかかると、ぶちこわしだな!!」
 がー! っと吠えるテルプシコルは捨て置いて。
 メイミィは、ニ人の巫女の方を見る。
「じゃあ、やっぱり……」
 おずおずと確認するメイミィに
「はい、巫女ですので。殿方とのおつきあいは、残念ながら」
 と、スフィンクス。
「わたしも、巫女です。なんだか、お役にたてませんで……スミマセン」
 と、何故か謝るネメア。
「そうなんだあ……」
 ちょっと神妙な顔になったメイミィに、スフィンクスは微笑んだ。
「メイミィは今まで男性とおつきあいしたことは、あったのですか?」
 わずかな沈黙。
 メイミィはすこしブルーな感じでそれに答える。
「……なんか、すごく子供扱いだったんだよねぇ。年の近い子、いなかったし」
 言ってから、メイミィは遠い目になる。
「年上の職人のお兄ちゃんとか、子供のころ好きだったなあ」
 ほう、と興味深そうにテルプシコルはメイミィを見た。
 メイミィはさらに思い出を語る。
「アンティマコスっていってね。母親が死んじゃってから、私のことを引き取ってくれたおじいちゃんとおばあちゃんの孫だったんだけど」
「アルコンのことか?」
 と言うテルプシコルに
「そうそうそう!」
 とメイミィは高速で頷いた。
 ふと、遠い日のなんかを思い出したのか、すこしばかり沈んだ口調でぼやき始める。
「……アンティなんか、わたしのことを思いっきり子供扱いで。ホント、どうにもならない感じだったなあ〜」

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