#172:炭焼き小屋、居間(十三)

「【黒曜の厳雷いかづち】ことゴート卿は、皇帝近衛騎士にして帝国騎士団長を兼任しており、現在の帝国騎士の中で一番の実力者であると言えます」
 じたばた、じたばた。
「年齢は三十七歳。元々平民の出であるとかで、修行に修行を重ね家名の七光り無しでココまで上り詰めた実力者です」
 じたばた、ばたばた。
「生活ぶりなども武人らしく実にストイックで。性格は沈着冷静。取り乱すことなど無いのではないかと思えるほど重々しい雰囲気をお持ちの方です」
 じた、ばた……じた、、、
「少し額が薄くなっているのですが、ソレが短髪にしている髪型と良い感じにマッチして、実に男らしく。筋肉質なからだと相まって、大変頼りがいのある方です」
 じた、、、ばた、、、、
「一見無愛想に見えますが。その実、たいへん情に厚い人情家で。私も帝都にきたばかりのときに右も左もわからず困っていたところ、事細かな点まで面倒をみていただきました」
 じた……
「政治闘争に長けた帝国技術総監のガレノス殿に負けて、帝国宰相の地位にはつけなかったものの。アトレウス皇帝の信任も厚く、若手騎士にも頼りにされ尊敬を集めている、騎士の中の騎士と言うべき人なのです」
 ……ばた。
「どうでしょう?お分かりになりましたか?」
「うむ、よく分かった。それでな……」
 はい?
 質問に答える体勢のスフィンクスに、テルプシコルはため息混じりにこういった。

「とうとう、クレイオが動かなくなったが。大丈夫か?」
「え!?」

 ぐてーん。
 口と鼻を同時にふさがれ、両の眼をぐるぐるうずまき状態にしてぐったりとしちゃったネメアが、スフィンクスの腕の中で意識を失っていた。

「だ、大丈夫ですかクレイオ!?」
「ダメだな、これは」
 大焦りのスフィンクスに苦笑するテルプシコル。
「では、失礼して……」
 ミュートスを紡ぐべくオーラをまとおうとするスフィンクスを制して、テルプシコルはちょっとニヤリと笑ってみせる。
「まあ、お詫びがてら膝枕をしてやれ。汗だくになっているから、ついでに拭いてやると良い」
 はあ、と。
 ハンカチを取り出し、スフィンクスは言われたとおりにネメアの汗を拭く。

「『息苦しさはもうなかろう。まぶたも軽くなってきたのではないか』」

 そこにテルプシコルの癒やしのミュートスが紡がれた。

 ——さすがに、ものすごい力ですね。

 テルプシコルのミュートスに思わず見とれたスフィンクスの膝の上で。
「う、うーん……」
 ネメアが息を吹き返した。
「これで問題はなかろう」
「ありがとうございます!」
 スフィンクスがテルプシコルに礼を述べる声に気がついたのか、ネメアの意識が戻った。
 ゆっくりと目を開けると……
「クレイオ?」
 至近距離から、心配そうに自分をのぞき込むスフィンクスの顔。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい……」
 さらに、スフィンクスの膝の上に頭を乗せている自分にも気が付く。
  
 ——天国?
 
 そう思ってしまうほど。
 ネメア的に、なんか幸せなシチュエーションだった。

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