#174:炭焼き小屋、居間(十五)

 ともあれ、テルプシコルはなんか呆然としているスフィンクスもからかっておこうと思ったのか。
 なんだか、うれしそーに話しかける。

「まあ、慕われるのも悪くはなかろう」
「は、はあ……」
「男性相手ならば巫女の資格を失うが、女性相手なら大丈夫だぞ」

 うっ、と。
 軽くうめいて絶句するスフィンクスに。
 ネメアは、大あわてで弁解につとめはじめた。

「い、いや……お姉さまが好きだっていうのは、そんな肉欲に駆られての好きというのとは違いますので、大丈夫です!」

 ——肉欲って。

 思わず絶句しちゃった一同。
 なんとも顔に似合わぬ表現を聞いて、スフィンクスはネメアに尋ねてみる。

「クレイオ、またおかしな書を読みましたね?」
「え、いや……その……」

 ——ビンゴ。
 うろたえながら、ネメアはぼそぼそと説明を開始する。
「この間、まとめて書物を購入したときに一冊紛れ込んでまして……つい」
 『紛れ込んだ』のか『紛れ込ませた』のかは意見や見解の分かれる所であるが。
 ともあれ、うつむいたネメア。もお耳まで真っ赤だ。

 そして。
 そう言う書物とか、全く縁がなかった約一名。
 眼をキラキラさせて、言い放った。

「クレイオちゃん、みせてッ!」
「えっ!?」

 メイミィの予想外のオファーにとまどうネメアであった。
 そして、同じく縁のなかったもう一名が興味深げにサポートする。

「まあ、良いではないか。私も見てみたい」
「巫女神さま……」

 繰り返すが。
 とんだ神様もあったもんである。
 でも、流石に神様に言われたら観念したものか。
 ネメア、少しお待ち下さいと荷物の底の方をゴソゴソと探り出した。

 ——そんなトコに隠していたのか。

 皆の心中で『紛れ込ませた』のオッズが一気に高くなる。
 ややあって、ネメアは透けない黒の布で包んだ一冊の書物を取り出した。

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