#176:炭焼き小屋、居間(十七)

 大絶叫。
 それはもう、四人揃って吹き飛ぶような勢いでソファから立ち上がり、部屋の入り口に立つマックを見た。

「い、い、いつからそこにいたの、マック!?」
 ものすごく赤い顔で、メイミィは尋ねた。
 マックは怪訝そうな顔でそれに答える。
「たった今だ。カレーをある程度仕込み終わったんでな。味見でもして貰おうかと思ってな」
 そんなマックに、ちょっとむーっとした感じでテルプシコルは文句を言う。
「気配を出して歩け。ビックリするだろうが」
「……いや、普通に歩いたぞ」
 きょとんとした風のマックに、スフィンクスは見る人が見ると明らかに話題をそらすような感じに話しかけた。
「カレーが出来たのですか、マック?」
「いや、まだ仕込みだけだ。これからじっくり煮込んでコクを出す」
 ぐるぐると。
 棒で鍋をかき回す仕草をマックはした。
「まあ、その前に辛さの具合だけ見て貰おうかと思って……来たら、なんか『書物』だなんだで盛り上がってたからどうしたんだろって話だ」
 あはは。
 スフィンクスは何がおかしいのかまったく掴めないままに、とりあえず笑ってみせる。
 笑ってごまかす気満々である。
 そしてネメアはスフィンクスとマックが話している隙に小声で囁く。
「……メイミィさん、コレを私の荷物の中に。スミマセン!」
 ささっ。
 普段のおっとりした仕草からは想像の付かない素早さで、例の書物をマックの傍らに立つメイミィに手渡した。
 隠蔽成功。
 スフィンクスとネメア。ムーサイの巫女同士の見事なコンビネーションプレーである。
 ——いや、そんなに褒めることでもない気もするが。

 その後、ネメアはマックに向き直った。
「で、では味見させていただきましょうか?」
 にこにこ。
 ちょっと嫌な汗をかきながら笑う。
(ここでごまかしちゃえば、もう大丈夫です)
 祈るような気持ちである。
 そして、ネメアとマックの目があった。

「あっ!!」
「ななななななんですかあああああああぁぁっっ!!??」

 ネメアのやたら大きいリアクションに違和感を覚えながらも。
 そこはそれ、細かいことは気にしないマックである。
「そういやちびっ子! 先日料理した時に煮ただろ?」
「あ、は、はい」
 食材の中にお米があったので、壺で煮た後でザルに上げ。お湯を切って皿に盛る形で付け合わせにした覚えがある。
 ネメアが話が読めずにきょとんとしていると。
 がーっと吠えるようにマックは言った。

「米は『煮る』んじゃない『炊く』んだ!」
「『炊く』?」

 ——どう違うんですか?
 と、聞くより早く。
「とっくりと炊き方を教えてやる。まずは台所に来い!」
 ぐい、っと。
 ネメアをボストンバッグよろしく如く腰のトコを掴んでひょいっと持ち上げて、マックはずんずんと台所へ向かった。

「あ、あのマックさん……スカートが! あがってて、これじゃあ見えちゃいます!」
「大丈夫だ、そのくらいじゃ死にゃしねェ」
「そう言う問題ではないのではーっ!?」

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