#180:街道

「なんだか、いまだに信じられませんね」 
 二人だけに戻って、寂しさを感じながらスフィンクスは言う。
 それを聞き、遠い目をしてネメアは頷いた。
「えぇ……まだ、夢みたいです」
 スフィンクスもつられて遠い彼方を見る。
 一拍の間。万感の思いを込めて、スフィンクスは言った。
「でも、本当に……よかった」
 はい、と。
 ネメアは深く頷いて、スフィンクスの顔を見る。
「私たちがムーサイって信じて貰えてよかったです」
「オレステスさんと……ご先祖さまのおかげ、ですかね?」
 言いながらスフィンクスはひつじ雲に覆われた空を見上げる。
「子供の頃から、おとぎ話で聞いてきたひとですからね」
 たとえるならば、桃太郎や人魚姫と会ったような不思議な気持ちになりながら。
 スフィンクスはくすっと笑いを漏らした。
「あと……とても本人には言えないことですが……」
 ネメアの顔を見て、すこしいたずらな表情をスフィンクスは浮かべる。
「——あんな、可愛い方だとは思ってませんでした」
 あははと、ネメアは笑いながら言う。
「おとぎ話では、もう少し厳しい感じの女性ってイメージですよね」
 自然に笑みをこぼしながら、ネメアは言葉を続けた。
「でも……なんだか、ぎゅーってしたくなるくらいかわいかったです」
「ですね。装束もなんだか可愛くて素敵でした」
 そして。
 スフィンクスはうーんと伸びをすると、ネメアを見て言った。
「さあ、テルプシコル様のご期待に添えるよう頑張らなければ」
 その言葉にネメアは即座に頷いた。
「はい。頑張りましょう!」
 足取りも軽く。
 二人は帝都イリオンを目指して旅路を進んでいった。

 その一方で。
「よかった……」
 テルプシコルは極めて上機嫌に歩みを進めていた。
「今まで、回る里全てが滅んでいた。正直——ミュートスは皆、滅ぼされたのではないかとさえ思った」
 ぎゅ、と。胸元のブローチを軽く握って。
 テルプシコルは、どこか遠くを眺めた。
「それが、よもや……ムーサイの巫女と会えるとはな」
 そうだね、とジンは頷く。
「里にはまだ三人の巫女がいるって言ってたね。
 メイミィの里もあるし、これからもたくさん見つかるんじゃないかって」
「そうだな」
 テルプシコルは満足気に頷いて、歩き続ける。
 メイミィはその後ろでマックに言った。
「どう? すこしはテルちゃんのこと見直した?」
 いつも、子供扱いしてテルプシコルの機嫌を損ねるのがお約束のマックであった。
 そのマックは、ちょっと考えてから言う。
「ああ、うわさ話ってのはドンドン大きくなっちまうんだってことがよーく分った」
 マック、くくくっと笑う。
「だってよ……このテル吉が神様だぞ?」
 まあ、ねえ……と苦笑するメイミィに、面白そうにマックは続けた。
「口を開きゃ、小言しか言わねぇ神様じゃ……ミュートスのみんなもかなわネェよなあ」
 テルプシコルは前を向いたまま、雷を落とす。
「聞こえてるぞ、マック!」
 怒られちゃったマックは肩をすくめてみせた。
「ほらな」

 テルプシコル以外、大爆笑であった。
 一行は、秋晴れの空の下。
 おだやかな街道を、まだ見ぬミュートスの里を目指して歩いていくのだった。

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