#184:ゴート邸 - ⅱ

 心中忸怩たる思いが渦巻くアークだったが、すぐさま報告の体制に戻る。
「スフィンクスが従者として伴っている少女は、私が調べたところ言魂で自由自在に動物を操る力を持つとか」
「ほお」
 それは見てみたいな、と言うような表情になったゴートに鋭い視線を飛ばしながら、アークは報告の続きを語った。
「このところ頻発しているモンスターによるミュートス狩り部隊の連続襲撃に関して、スフィンクスと従者の少女こそが実行犯である可能性が濃厚です」
 ゴートの鋭い目が、驚きのために丸くなった。
 一拍の間を置いて、じっとアークの顔を見つめる。
「報告は以上か?」
「はい」
 どんな意見があろうとも、報告は最後まで口を挟まずに聞くのが鉄則である。
 アークの報告を聞き終わり、ゴートの最初の反応は苦笑を漏らすことであった。
「いや、アークトゥルス卿……なるほど、着眼点は見事だが……残念ながらそれは違う」
 その言葉を聞き、怪訝な表情をみせるアークだったが、次のゴートの言葉で今度はアークが目を丸くすることになる。
「俺はスフィンクスと従者の少女がミュートスだということは、承知している」
「……は?」
 言うまでもなく、ミュートス狩りの勅命が全騎士に下っている状況である。
 ミュートスを囲い、手足のように使っているゴートの行為は逆心ありとされてもおかしくはない。
 なんと言っていいものかわからぬ体のアークに、ゴートはむしろ面白げな感じで話しを続けた。
「何か事情がありそうだが……そういう怪しいところもひっくるめて、動いてもらっている」
「ゴート卿……あの二人を信用しているのですか?」
「ああ、仕事は確かだからな」
 言ってから、ゴートは彼が時折みせる物騒な笑顔を浮かべた。
「俺をハメるつもりならば、ハメればいい。できるものならな」
 数々の修羅場をくぐり抜けた者のみが持つことができる迫力を前に、アークは言葉を失う。
 呆然と立ち尽くすアークに向かって、ゴートは余裕の笑みを浮かべてみせた。
「いずれ、テルプシコルのことはスフィンクスから報告があるだろう。だから、アークトゥルス卿が無理にコトを荒立てなかったのは正解だということだ」
「わかりました」
 なおも釈然としない風のアークの様子は頓着せずに『さて』と、ゴートは話題を切り替えた。
「今度戻ってきたときに相談させてもらおうと思っていたんだが、ちょうど良かった」
「相談?」
 唐突な話の展開に、さすがに話が読めないものかアークは怪訝な表情になる。
「どのような話です?」
 ゴートは割とマイペースなところがある。
 アークが戸惑っているのをよそに、つい先程まで彼が眺めていた少年を呼び寄せた。
「ネオ! こっちに来てくれ」
「はい!」
 快活な返事とともにゴートのもとへ走ってくる少年を、アークは若干あっけにとられたように見た。
 今ひとつ状況がつかめないのは少年の方も同じなのか、軽く息を弾ませながらやってきたもののどういうふうに振る舞えばいいのかを測りかねている風でもあった。
 そんな戸惑う二人を見て満足気に頷くと、ゴートは少年の肩に手をおいてアークに告げた。
「騎士見習いのネオだ。コイツをお前に預けたい。鍛えてくれ」

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