#185:ゴート邸 - ⅲ

 前フリも何もあったものではない。
 そんなあまりに突然すぎる提案に戸惑いを隠せないアークに向かって、ゴートはなおもマイペースに話し続ける。
「なかなか筋がいいし、なにより修行熱心だ。できるだけ良い師匠を見つけて伸ばしてやりたい」
「なるほど。それはわかりましたが……」

 正直、弟子を取る気にまるでならない——むしろ、自分が修行し直したい気分のアークはなんとも煮え切らない言葉を返した。
 その反応を読んでいたのかいないのか、しれっとゴートは付け加えた。
「マックが帝都にいたときは、ちょこちょこ見て貰っていたんだが。アイツはいなくなってしまったからな」
 その言葉を聞いて、アークの眉がピクッと動いた。
 ゴートの思惑をある程度理解しつつ、アークはネオと呼ばれた少年をあらためて見た。
(背格好はジンと同じくらいか……)
 人に教えることで、自分でも忘れていたりおざなりにしていた基礎を思い出したり、思わぬ発見をしたりすることがある。
 そして、その発見が時として壁を打ち破る原動力になることもある。
 アークはジンを弟子に取った時に、そのことを充分実感していた。
(——初心に返るのもいいだろう)
 短時間の、しかし熟考の末、アークはゴートに返答した。
「わかりました、引き受けます」
「そうか、アークトゥルス卿なら安心だ。よろしく頼む」
 予測された返答であったが、それでも満足気にゴートは頷く。
 そして、背後の林を越えたところにそびえる王城を指さした。
「それと、モンスター発生の調査をクニスカ卿にやってもらっている。いずれアークトゥルス卿にも動いてもらわなければならんだろう。それまで、帝都でネオを鍛えがてら待機していてくれ」
 アークの脳裏を噂に聞くモンスターの影がよぎった。ただでさえ緩んでいない表情を引き締めて、ゴートに向きなおる。
「わかりました」
 おう、とフランクに答えるゴートから目線を外し、アークはゴートの横で佇んでいるネオに向かって右手を差し出した。
「アークトゥルスだ。これからよろしく」
「ネオです。至らない点も多いと思いますが、色々教えてください」
 緊張と認められた喜びに頬を紅潮させて、ネオはその手を握り返した。
 その反応に満足したものか、アークは軽く微笑むと中庭の片隅にあるやや開けた場所に歩みを進めた。
 歩きながら騎士の紋章が輝くグラブを外し、相当に使い込んだ稽古用のグラブに付け替える。
「では、早速腕前をみせて貰おう」
 と、言った時にはすでにオーラも練り上がっている。
 その無駄のない動きに早くも感銘を受けながら、ネオは小走りでアークの前に向かう。
 少し間合いを取って向き直り、自身もオーラを素早く練り上げた。
 ネオがオーラを練り上げるさまを落ち着いて眺めていたアークは、一呼吸置いて彼に告げた。
「いつでも」

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