#186:ゴート邸、中庭 - ⅰ

「——はい!」
 返事するや否や、ネオはすうっと息を吸い、まるでアークに抱きつくような勢いで間合いを詰めて拳を放った。
 大胆といえば大胆だが、ややわかりやすい攻撃でアークにはあっさりと受け流されてしまうが、当のアークは心中で感心の吐息を漏らした。
(なるほどな、これはゴート卿の筋だ。小細工もせず、素直に飛び込むのは良い)
 小柄なネオがアークのようにしっかりした体格の戦士とやりあうためには懐に飛び込んで、ごく近い間合いでやりあう方が良い。
 無論、自分の攻撃が当たるということは相手の攻撃も当たるということだが、その恐怖心を克服しより大胆に間合いを詰める事こそが肝要である。
 密着と言って良いくらいの近接距離から、なおもテンポよく繰り出される攻撃を柳に風と受け流し続けながら
(なるほどセンスも良い……この歳にしてはかなり使う方だろう)
 と、心中でアークなりの賛辞を呈した。
 アークは間合いを徹底的に詰めて闘うネオのやりかたに、そこはかとなく既視感を覚えていたが、ややあってその原因に思いあたった。
(なるほど、ゴート卿というかマックに筋が似ているんだな)
 体当たりで相手をふっとばそうとしているのかと言う勢いで間合いを詰めてくるマックのプレッシャーはそれだけで並大概の人間は降参するほどである。
『届かなきゃ、当たらねぇだろ!』
 とは、若手騎士を指導中のマックから良く飛んでいた激のひとつだ。
(そう言えば、ジン……会ったときは鍛錬中の様子だったな。山を走り鍛えると言うのは、マックらしい)
 道場で修行しただけではニセの体力しかつかない、とはマックの持論だった。
 そこら辺に落ちている岩を抱えて筋力トレーニングをしたり、巨木を相手の打ち込みなど自然のものを用いた鍛錬を好んでいたが、道なき山道を走る鍛錬は
『まず、足腰を鍛えなきゃな。土台がシッカリしてなきゃウワモノもでかくできねェってもンよ』
 と、特に好んで行っていた。
 現に自分が見ていた時よりも身体がガッシリした印象のジンを思い出し、アークは組手の途中だというのに遠い目になるのだった。
 
 そして、一方。
 ネオは目の前のアークに、自分が今習得しているすべての技術を持って攻撃を入れている。
 だが、まったくと言っていいほど届いていない。そんな状況であった。
(強い……!)
 言わずもがなな感想を、ネオは抱いていた。
 ゴートやマックが相手の時は岩のようなガードにはじかれる感じで『攻撃が通じない』と言う印象であるが。
 アークは打ち込みはするものの、全ての攻撃が受け流され捌かれてしまう。
(ゴート卿やマックとは違う強さだ……)
 ただ普通に立っているだけのようにも見えるが、一枚の薄い布を殴りつけているような感覚に陥る。
 しなやかな布は、どんな強風でも破れない。それと同じ印象だった。
(僕の動き……なにをやろうとしているのか、全て見透かされているようだ)
 何をやっても、先を読まれていて通じない。
 そんな感覚を覚えながらも、ネオは繰り返し攻撃を試みるのだった。

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