#188:ゴート邸、騎士候補生宿舎前 - ⅰ

 宿舎に戻る道すがら、喉の渇きを覚えてネオは中庭の外れにある井戸に立ち寄った。
 井戸端から中庭を伺うと、若干幼めの騎士見習いたちが熱心に修行をしている様が見える。
(このなかの何人が騎士として認められるのだろう?)
 言魂使いの頂点——帝国騎士《フォーネス》は極めて狭き門である。
 高い才能を持っているのは大前提で、その上で努力に努力を重ね、その努力が運良く報われたもののみに道は開かれる。
 出自を問わず皇帝直轄の家臣になれるとあって、帝国全土から夢見る子どもたちが毎年イリオンへやって来るが、最後まで修行をやり遂げて騎士になれるのはほんの一握りなのだ。
 ネオは打ち込みや乱取りを続ける自分よりも年若な候補生たちを複雑な表情で見ていたが、ややあって中庭の隅の方でオーラをまとっては解くのを繰り返すという基礎的な訓練を一人で黙々と行っている少女に目を留めた。
 豊かな金髪をじゃまにならぬように結いあげ、ドレスと言っても差し支えないほどに豪奢な服を身にまとっているという、騎士候補生である他の少年少女達の中に混ざるとさぞや異彩を放つであろう出で立ちのその少女、年の頃はネオより少し上くらいか? その割にはずいぶんと初歩の鍛錬を行っており
(……言魂使いには見えないけど?)
 と、怪訝な表情で首を傾げた。

「……?」
「——あ」

 なんとなく視線を感じたものか。
 唐突に顔を上げ、振り返った少女とネオの目が合った。
 別にやましいところは無いのだけれど、ちょっとドキっとしながら少女の元へ歩み寄っていく。
「こんにちは」
 少し微笑みながら、少女は優雅に会釈する。
 どこの貴族のご令嬢なんだろう、と思いながらネオは軽く居住まいを正す。
「僕はここで修行をしている騎士見習いのネオと言います」
 きっちりと頭を下げた騎士見習いの少年に対して、少女は軽く膝を曲げて完璧なカーテシーをして見せた。
「わたくしはミシア王国の第三王女、コーネリアと申しますわ。以後、よろしくお見知りおきを」
 王女!?
 声にこそ出さなかったが、おもいっきり驚きの表情を浮かべたネオに向かってコーネリアは余裕の笑みをみせる。
 ネオはあたりを見回して、護衛の戦士が見当たらないことに気がついて、さらに驚いた様子で尋ねた。
「何故、ミシアのお姫様が……ゴート卿の館で武道の修行を?」
 この上なくストレートな疑問をぶつけられたコーネリアだったが、それに対して自嘲するような笑みを浮かべてみせた。
「我が国は小国ですので、人質と言うところですわ」

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