#19:神殿(三)

(本当に……あのお姫様!?)
 驚きと喜びが混ざったような表情で立ち尽くすメイミィをよそに、アークはオーラをまといながら前に出た。
「今、帝国では騎士にミュートス狩りの勅命が下されている」
 眉をしかめ自分を睨み付けているテルプシコルに……まるで自分に言い聞かせるように……アークはゆっくりと、はっきりと語った。
「正体がどうであれ、ミュートスならばあなたを捕らえねばならない」
 あ、と。何かを言いかけたクニスカだったが、口をつぐんで様子を見るように一歩下がる。
 その代わりにメイミィがテルプシコルを守るかのように、アークとの間に割って入った。
「この子、私たちのお姫様みたいなの。勝手につれていかないでくれる?」
 ちょっと苦笑気味に言うメイミィを見てアークはすうっと目を細めた。  
「君も同じだ、ミュートス使いの娘よ」
 言い置いてアークはぐっと拳を握り込む。
「無駄な抵抗は止めてくれ。もし、抵抗するというのならば存分に相手する用意がある」
 それは、あまりに交渉の余地のない硬く冷たい言葉。
 その言葉を聞いて息をのみ、緊張を走らせるメイミィ。怒りに目を見開くテルプシコル。
 複雑な表情で黙り込むクニスカの脇を抜けて、ジンはアークとメイミィの間に滑り込んだ。
「アーク! この人たちは何もしてないじゃないか!」
 慌てたような表情で、ジンは両手を挙げてアークに抗議した。そして困惑の表情を隠さないまま、必死な口調で話し続ける。
「いきなりミュートス狩りだなんて……どうしたの!?」
 いままでそんなこと言わなかったじゃないか、とジンから非難されているアークだったが、少し沈黙した後で、ゆっくりとジンに言う。
「ミュートスの捕獲が皇帝陛下の御意思で、我々騎士にそのことを命じられたからだ」
 それは、まるで教科書を読むような
「我々は、それに従わなければならない」
 抑揚のない、アークの口調だった。
「だけど、アーク!」
 とりつく島もないアークに、なおも食い下がろうとする。そんなジンに、アークは言った。
「下がれ。そして……こちらに来い、ジン」
 それを聞いてジンの気持ちは明らかに揺らいだ。若干の躊躇を見せながら、でもジンはなおもアークに訴えようと口を開く。
「でも……この子は……」
 アーク、ジンの言葉を断ち切るように首を横に振る。
「お前の妹かもしれない……が、そうでないかもしれない」
 信じられないことを聞いたように、ジンは思わず絶句した。
(だって……話、聞いてたよね?)
 言葉を失い、愕然と立ち尽くすジンに。アークはなおも厳しい内容の言葉を投げかける。
「もしお前がミュートスの流れを組む血筋であれば、俺はお前を捕らえなければならない」
 ぎゅう、と。音を立てて右手を握りしめたアークはまっすぐジンの顔を見て言う。
「それが騎士にとっての勅命の重さだ」
「え……アーク?」
 まさか、アークからこんな言葉が出るなんて……
 何が起こっているのか理解できない風情のジンにアークはなお、厳しい表情のまま言う。
「……だから、忘れろ。こちらにこい、ジン」
 いままで育ててくれたアークと、生き別れた双子の妹のどちらをとるか?
 厳しい二択を迫られて、ジンは返事をすることもできず、混乱して立ち尽くした。
 そして、そんなジンの様子を見て、軽やかにステップするような足取りで、アークとジンの間にメイミィは割って入った。
「この騎士の人、ジンのお友達でしょ? わたしがなんとかするから大丈夫だよ」
 なんとかって……?
 ジンが絶句したその時、メイミィは首に巻いたリボンを外してポケットに入れる。そして、瞬時にオーラを練り上げた。
「——何ッ!?」
 目の前の光景を見て、アークは思わず声を出して驚いた。
 我が目を疑うかのように激しく瞬きをして、次の瞬間に瞠目する。
 ——オーラを練り上げたその瞬間、目の前でメイミィの姿が変わったのだ。
 黄色いワンピース姿だったはずが、白く輝くワンピースを身にまとい、頭上には猫を思わせる耳が乗る……だけではなく、猫のようなしっぽまで生えている。
(……どうなっているんだ?)
 脂汗を流しながら、アークはメイミィを凝視する。しかし、どう見積もってもメイミィが目の前で『変身』したようにしか見えない。
 そして、その後ろで眼鏡をかけたクニスカがぽかんと口を開けて無意識のうちに呟いた。
「あの服……全部、オーラなンか?」
 クニスカの眼鏡は先祖代々伝わる名品で、オーラの姿を見ることができるもの。その眼鏡を通して見るとメイミィの服が、猫耳が、しっぽが。すべて光り輝くオーラでできているのが分かった。そして、今度は眼鏡を外してメイミィを見たクニスカ。信じられないものを見るような目になった。
「オーラの実体化……ってレベルちゃうデ」
 ロゴスではせいぜい剣の形に輝く光とかそういうレベルの『実体化』だが、目の前で起こっているミュートスのそれは……本当の布のように、本当の猫耳のように。まさに『変身』というレベルだった。
 そして。

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